今日も今日とて東洋館。終わりで番組の前説。


前説とはテレビ収録の観覧に来ているお客さんのテンションを本番が始まる前に盛り上げるお仕事。

拍手の練習や注意事項などを小粋なジョークを交えて行ない、お客さんを笑わす




今まで我々はたくさんの前説をした


そんな前説の中で思い出すのは、12年前。

地獄の前説を経験した。




「厚木のお祭りで俺は知らんねんけど、なんか今若い子らに人気のバンドがライブやるらしいんや。お前ら前説やらへんか?」

事務所のお世話になっている大先輩が僕らに仕事を紹介してくれた。


仕事がまったくなかったので、もちろんその仕事を二つ返事でOKした

「俺の知り合いが紹介してくれた仕事やから、事務所は通してへんで」

事務所を通していない仕事

俗にいう闇営業である

通常、我々は事務所に所属している以上、全ての仕事の取り分は事務所と折半である

ところがこの闇営業は事務所を通していないので、そのままギャラが我々の手元に入る

なので、基本的に闇営業というのは御法度である。

小心者の我々はこういった闇営業が入るたびに、馬鹿正直にマネージャーに相談し、闇を表に変えてきた。

ところが今回に関しては先輩に迷惑をかけてしまうので、マネージャーには相談せずに行く事にした。

まぁ、小さいお祭りでバンドが演奏する前の賑やかしだから事務所にはバレないだろう


念のため、そのバンドの名前を聞いてみた

「ん〜、なんやったけ…なんとかかんとかやったような気ぃするわ」

なんとかかんとか?

答えになってない

「まぁ、最近デビューしたばっかでそんな有名やないから、大丈夫やろ」



その言葉を信じ、当日現場に向かった。

現場に着くと、そのお祭りが厚木のお祭りの中でも最大規模のものである事がわかった


「ま、まぁ…あ、厚木だし。たかが知れてるだろう」
そう思った。

そして責任者的な人を見つけ出し、事情を話すと「あー、君らね。〇〇さんの紹介の後輩ってのは」

話がすぐに通じたみたいだった。

持ち時間は10分。「バンドが演奏する前に盛り上げてね」とだけ言われた。

「ちなみにバンドっていうのは?」

「今楽屋にいるよ。君たちの楽屋は隣だから」

「あ、いや楽屋の場所ではなく、そのバンドさんの名前教えて頂けませんか?」

「えっ〜とね。なんだっけ…。そうだ!いきものがかり


いきものがかりだった


ところが当時の我々もそのバンド名を聞いて、まったくピンと来なかった


よかったぁ〜〜とほっと胸を撫で下ろした


楽屋にいるいきものがかりに挨拶に行くと、向こうも低姿勢でよろしくお願いしますと握手をしてきた。


今覚えば恥ずかしいのだが、「お互い頑張って売れましょうね」くらいの顏を我々はしていた。


本番直前30分前、舞台袖に移動して事の重大さに気づいた。


一万人以上いたのだ。


うわ!!これ闇じゃねぇよ!!


もう表だよ!表も表。ド表!


というかこんな人の前でネタなんてやった事ねぇよ!どうしよう!!


みるみる顔が青ざめていった。

本番直前のいきものがかりの横で我々はしかばねふたりになってしまった。


いよいよ本番10分前。
僕らの出番だ。

白目を剥いて、泡を吹いている私にボーカルの吉岡聖恵さんがハグをしてきた。

「いいステージにしましょうね」

数時間前、「お互い頑張って売れましょうね」と思った自分を撲殺したい気分だった。


前説開始

なんとかヤケクソで盛り上げた

気がついたら、ステージ上で奇声を発して走り回っていた

明日死んでもいいくらいのテンションが功を奏したのかもしれない

なんとか前説が終わり、ライブスタート

流石だ。

一気に心を掴まれる素晴らしいライブだった。

あっという間にライブが終わり、いきものがかりが袖に戻ってきた。

ハイタッチを求められ、返す我々。

お客さんはアンコールの大合唱

するとスタッフさんがこちらに近づいてきて、こう言ってきた






「オキシジェンさん、お願いします!」





はぁ?

何を言ってるんだ、こいつは?


暑さで狂っちまったか?


一万人の客が求めてるのは我々じゃない。
いきものがかりだ。


ところが話を聞くと、このお祭りの大イベントに花火を打ち上げるらしい。
その花火のタイミングでもう一度いきものがかりが出てきて、歌うという演出だったのだが思いのほかライブが早く終わってしまったので花火まで、まだ時間がある。


なので、我々が花火の時間までつないでくれとの事だった。




いやいやいやいやいや………!


殺されるって!

今ステージに我々が出ていったら!!


あの時僕らの気持ちはまさに「帰りたくなったよ」だった


覚悟を決めて、大アンコール渦巻く、ステージに飛び込んでいった。

史上まれに見る大ブーイング

およびでない感が凄まじかった

我々は「SAKURA」のように散った


これが僕らが経験した地獄の前説だ。
抜群にトラウマになっている。



いつになったら我々には「風が吹いている」状態になるのだろう。







今日思った事
嫌な旅行シリーズ:武蔵浦和、武蔵溝ノ口、武蔵小杉、三大武蔵ツアー