週明け18日の東京市場で、日本の長期金利(10年最長期国債利回り)が一時、2.800%と29年半ぶりの水準に上昇し、株安と円安に結びついて円建て資産の「トリプル安」となった。世界的な金利上昇が日本にも波及したかたちだが、日本には高市早苗政権による積極財政が赤字を拡大させるという市場の懸念も存在する。

 世界的な金利高の背景にあるイラン戦争によるホルムズ海峡の封鎖は長期化するとの観測が台頭。原油価格が高止まりを続けており、この現象に終止符が打たれないと日本における物価高の進展と長期金利の上昇、円安の進展にストップをかけることは難しい。高市首相の政策手腕が問われることになる。

 

 <米英での大幅な長期金利上昇、日本に波及>

 

 18日の市場で目を引いたのは円債市場だった。取引開始直後に長期金利が1996年10月以来となる2.800%に上昇した。

 複数の市場筋によると、前週末15日の欧米市場で主要国の長期金利が上昇。中でもスターマー首相への批判が高まり政局が混迷している英国では、長期金利が5.17%に上がった。

 NY市場でも米長期金利が4.599%に上昇し、30年債利回りは5.131%に跳ね上がった。

 

 <崩れた米中首脳会談後のホルムズ開通期待、原油価格高止まり>

 

 市場の一部には、米中首脳会談で中国の習近平国家主席がイランに対してホルムズ海峡の封鎖を解除するよう強く働きかけるという根強い期待感が存在していた。

 しかし、そうした市場の期待は裏切られ、ホルムズ海峡の封鎖は長期化するとの思惑が強まり、原油価格は高止まりした。

 週明け18日のアジア市場で、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物が1バレル=107ドル台と高水準を維持。世界的な金利上昇は継続するとの思惑が広がり、一気に日本の長期金利が2.800%に上がる展開となった。

 

 <6-7月利上げ否定した英中銀副総裁、市場の懸念に「差し水」>

 

 だが、金利がどんどんと上がるという懸念は、 イングランド銀行(英中央銀行)のブリー​デン副総裁の発言によって、沸騰した鍋に差し水が行われたかのように金利低下を招いた。

 同副総裁は14日付のフィナ‌ンシャル・タイムズ(FT)紙に掲載されたインタビューで、6月や7月に​利上げを行う必要はな​いと述べていた。

 この発言が18日にロイターなどに紹介されてマーケットに伝わり、「つま先だった金利上昇への懸念」が緩和されたという。

 

 <やや低下した日本の長期金利>

 

 それでも、日本の長期金利は前週末比0.035%高い2.735%までしか低下せず、20年債利回りは3.750%から3.705%、30年債は4.200%から4.090%に下がったものの、前週末の水準を上回ったままだった。

 

 <日本の長期金利高止まり、財政膨張への懸念が影響>

 

 日本には世界的な金利上昇懸念に加え、高市政権が主導する「責任ある積極財政」という看板政策によって、財政支出が膨張しやすいという思惑が市場に存在しているからだ。

 高市首相は18日、政府・与党連絡会議で2026年度補正予算の編成を含めた物価高対策の検討を指示した。

 7-9月分の電気・ガス代補助やガソリン価格の引き下げを実施するための財政支出の延長などが含まれるとみられるが、その対策の目玉となる項目や全体の財政支出規模は不透明なままだ。

 

 <供給網対策求める声も、補正予算に膨張圧力>

 

 政府は「目詰まり」が発生しているとしてナフサ不足を認めていないが、シンナーに代表されるナフサ由来の石油化学製品が品不足なり、広範な商品価格の値上がりが表面化している。

 もし、与党内に値上がりに苦しむ業界を救済するため、サプライチェーンの円滑化を名目とした財政支出を求める声がこれから強まると、補正予算の規模が急膨張する可能性もある。

 

 <ホルムズ封鎖長期化なら、2回目の補正編成も>

 

 複数の市場筋は、そのような予算規模の膨張の先には赤字国債の発行があるという見通しが織り込まれていると指摘する。

 もし、ホルムズ海峡の封鎖が秋以降も継続するなら、今年秋に追加の物価高対策が検討されることも一部の市場参加者は想定しているという。

 仮に2回目の補正予算が編成されれば、赤字国債の発行規模が大きくなる可能性が高まる。そうした点を考慮すれば、日本の長期金利は2.75%-3%のレンジ取引に移行したとみるべきで、世界的な金利上昇のうねりが沈静化せず、高市政権の財政拡張路線がさらに鮮明になるなら「長期金利の3%という水準は通過点になる」という声もマーケットで漏れ出している。

 

 <介入後もジリジリと進む円安>

 

 日本の通貨当局による介入で160円突破を防いでいるドル/円でも、原油価格の高騰が長期化すれば、円安圧力がさらに強まり、これから介入が実施されたとしてもジリジリと円安が進みやすくなるとの見方が広がり出している。

 その背景には、ベッセント米財務長官に代表される米通貨当局が「恒常的な介入」に懐疑的ではないか、という市場関係者の思惑がある。

 

 <原油上昇と円安、同時進行なら日本の財政赤字は急膨張へ>

 

 もし、原油価格の上昇と円安の進展が同時に進行するなら、日本の物価上昇圧力は急速に高まり、物価高対策を財政支出だけで対応しようとするなら、日本の財政赤字が急膨張するリスクが鮮明になってくる。

 そのことが新たな長期金利上昇圧力となる可能性が高まり、日本の政策当局の選択肢を結果的に狭めることにもつながりかねない。

 

 <萩生田氏が指摘したガソリン170円補助の持続性>

 

 長期金利の上昇を起点にした18日のトリプル安は、高市政権にとっても「厄介な問題」になりつつあるのではないか。

 自民党の萩生田光一幹事長代行が18日の会見で、ガソリンの店頭価格を1リットル=170円程度に抑制する政府の補助に関し「まったく見直しをせずに延々と続けるのはかなり無理がある」と述べたのも、そうした認識があるからではないかと推測する。

 

 <ホルムズ封鎖長期化でも対応できる政策への転換、検討する進めるべき>

 

 ホルムズ海峡の封鎖が長期化するという前提に立って、封鎖の解除に至るまで「エネルギーの節約」という観点に立ったマクロ経済政策に方向転換する必要があると筆者は考える。

 長期金利の上昇に伴う経済的混乱を最小限に抑えるために何をするべきか──。高市首相がリーダーシップを取って国民に明確な政策の方向性を示す時が来た。