週明け16日の東京市場は、日経平均株価が0.24%安となり、ドル/円が朝方の円高から153円前半へと円安方向に進んだが、全般は大きな方向感のない展開だった。しかし、今年に入ってからの動きを概括すると、株高と円高が進む基調が続いていた。これはドルの信認低下が市場で意識される中で、海外勢を中心にドル建て資産から日本株や円が選好された結果と言える。ドル資産保有の参加者から見れば、ドルの下落に備えたディベースメント取引(通貨価値の下落をヘッジする動き)と言える。
だが、16日に発表された2025年10-12月期の国内総生産(GDP)が前期比・年率プラス0.2%と小幅の伸びにとどまり、海外勢の一部に日本の成長力に対する懸念も浮上し出した。特に高市早苗政権が打ち出した「戦略17分野の集中投資」には、日本経済の宿痾(しゅくあ)と指摘されている人口減少を止める政策が欠けており、日本経済が成長力を取り戻せるのか懸念がある、という声も出ている。低成長が続けば、海外勢の日本株や円への投資に陰りが出てきそうだ。
<衆院選の自民圧勝などで上昇続けた日経平均>
16日の日経平均株価は前週末比135円56銭(0.24%)安の5万6806円41銭と3日続落した。朝方は前週末NY市場で日経平均先物が買われた流れを受けて買い先行となったものの、5万7000円台での戻り売りに押されるかたちになった。
ただ、今年に入ってからのトレンドを見ると、日経平均株価は1月5日に5万1000円台で始まるとその日に1493円高となり、高市首相が衆院解散の方針を固めたと報道されると上昇テンポが加速。
衆院選で自民党が優勢と報道されると5万4000円台も突破。自民党が316議席の圧勝となった後の2月10日には5万7650円54銭まで買い進まれた。
<海外勢は1月4日からの5週間で3兆3874億円の日本株買い越しに>
衆院選での与党圧勝は「株買い」というアノマリー(経験則)が多くの国内勢の買い意欲を刺激したが、海外勢も負けじと日本株を大幅に買い越していた。
財務省の対外対内証券投資によると、今年1月4日から2月7日まで(衆院選の結果判明直前)までの5週間に海外勢は日本株を3兆3874億円という規模で買い越していた。特に直近の2週間では1兆0378億円の買い越しだった。
<金利上昇で日本国債に妙味、中長期債も5週間で4兆4713億円の買い越し>
また、長期金利(10年最長期国債利回り)の上昇が目立っていた円債市場でも、海外勢は1月4日から2月7日までの5週間に4兆4713億円の中長期債を買い越していた。直近2週間の買い越し額は1兆6170億円に達していた。
複数の市場筋によると、長期金利や超長期ゾーンの利回り上昇によって海外勢の中に「投資妙味」を感じた向きが増加し、全体として日本国債への海外勢の投資額が増加したという。
<トランプ政策でドル信認に陰り、ディベースメント取引に動く>
日本株と日本国債への海外勢の投資額をみると、上記のような「構図」となるが、その裏にはもっと大きな世界的資金フローの変化があった、と複数の市場筋は指摘する。
その正体は、ドル下落継続の可能性を察知した欧米系のヘッジファンドなどを中心とした海外勢の「ディベースメント取引」だ。
ディベースメント取引を志向した海外勢に共通している認識は、1)トランプ米大統領がドル安を志向している、2)グローバルな安全保障へのコミットメントを低下させるトランプ政権の政策は地政学的リスクの高まりとドルの信認低下を促すことになる、3)米国内でのトランプ政権の支持率低下でトランプ氏の政策が遂行できなくなるリスクが存在する──などの理由で、ドル安が中長期的に進行すると予想している。
<ウォーシュ氏の次期FRB議長指名、ドル買い戻しのきっかけに>
トランプ大統領が次期米連邦準備理事会(FRB)議長にウォーシュ・元FRB理事を指名し、他の候補者よりもFRBの独立性が保持されやすくなると見たマーケットは、直線的なドル売りやドル資産売りからドル資産の買い戻しをみせ、金や銀の暴落局面も見られることになった。
だが、一部のグローバルマネーに影響を与える参加者の中には、トランプ氏の多様な政策が「ドル基軸」という体制を瓦解させる方向に働くという疑念を持ったままだ、と筆者は指摘したい。
<衆院選で圧勝した高市首相、G7で最強の政権基盤を確立>
その中で、日本では初の女性首相として高市氏が登場。果断な衆院解散の決断と、積極性をアピールした選挙戦略の妙、戦略なき「出たとこ勝負」の野党第一党・中道改革連合の無策が重なって衆院選で大勝し、強力な政権基盤が確立された。
主要7カ国(G7)を見渡しても、向こう3年間にわたって選挙の苦痛をかんじることなしに政策運営できるのは、高市首相だけということに有力な海外市場参加者のいくつが気づいた。
<円建て資産がディベースメント取引の受け皿に、トリプル高現象も>
この結果、ドル安を懸念した「ディベースメント取引」の受け皿として日本株に脚光が集まることになる。
日米金利差からみて「売り込まれ過ぎ」と一部で見られていた円にも、衆院選後に買いが入り、すでに言及したように日本国債にも海外勢のマネーが流入した。
足元では、日本株買い・円買い・日本国債買いの円建て資産の「トリプル高」現象が起きやすい環境が整いつつあった。
<死角は日本の低成長、10-12月期GDPが年率0.2%増にとどまる>
ただ、円建て資産を受け皿にした「ディベースメント取引」にも、どうやら死角が存在する。
それは、日本経済の低成長の構造、言い換えれば低い潜在成長率の引き上げがかなり困難であるという現実だ。
10-12月期の実質GDPが前期比プラス0.1%・年率換算プラス0.2%と、市場予想の年率換算プラス1.7%を大幅に下回ったことは、海外勢の危惧が的外れでないことを示した。
<高市政権の成長戦略にかける人口減少問題への対応>
また、海外勢だけでなく国内勢の一部にも、高市政権が打ち出している人工知能(AI)、半導体、防衛などの戦略17分野に総額50兆円を超える官民資金の流入を目指す成長戦略の目玉構想には、人口減少を止める方策がなく、人口減少を補う明確なプランも欠如しているとの指摘が出ている。
現在でも、人手不足によって既存の設備が稼働できず、供給サイドに問題が生じていることに政府は有効な手立てを講じているとは言えないが、巨大な投資を現実に実行できたとしても、その生産設備を動かすことができる労働力の確保に関し、具体策が見えていない。
<アマゾンなど米4社が今年中に100兆円投資、日本は10年で50兆円>
さらに米国では、アマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタの4社だけで2026年中に100兆円規模の設備投資を行う計画となっている。
日本の50兆円の投資はスタートから10年間の合計であり、それも17分野に分散される。圧倒的な資金量を誇る米国企業群に対し、日本は官民合わせても単年度で比較すると20分の1の規模でしか投資ができない。
この圧倒的な物量の差は、アジア・太平洋戦争の開戦時の日米間の隔絶した国力の差を彷彿とさせる。
<低成長継続なら、日本からマネーシフト>
このような状況の下で、日本のGDPが2026年になっても低成長を続けるなら、米国から逃げ出そうとしているマネーの受け皿は、円建て資産から別の資産にシフトしていくだろう。
<人手不足への対応、フィジカルAIに集中投資すべき>
筆者は、戦略17分野では「間口」が広過ぎて効果が出ないと予想する。
日本にとって喫緊の課題は、人口減少による労働力不足への対応であり、その意味で製造業の人手不足問題に即効性のある「フィジカルAI」に集中投資し、この分野で米国企業に後れを取らないような態勢を構築することが大切であると指摘したい。
ディベースメント取引の受け皿として、グローバルマネーの期待をつないでいるうちに、具体的な成長力の引き上げ、特に人口減少問題への対応策を打ち出すべきだ。あまり残された時間は多くない、と指摘したい。
