NHKなどの報道によると、2026年度予算案の一般会計総額は122兆3000億円程度と過去最大になる。税収を目いっぱい膨らませて過去最大の83兆7000億円と見込むが、新規国債発行額は25年度当初予算の28兆6000億円から29兆6000億円に増加する。
この予算案でゼロ%後半まで落ち込んだ日本の潜在成長率を押し上げることができればよいが、少子高齢化に歯止めをかける効果的な施策は見当たらず、数年後に成長率が低迷したまま、債務残高が膨張する結果となる可能性も相応にあるだろう。24日に30年国債利回りが過去最高の3.450%に上昇したのは、マーケットの懸念が高まっている証拠でもある。26日に閣議決定される26年度予算案の評価は、マーケットが決めるという色彩が一段と強まりそうだ。
<税収見通しを80.7兆円に大幅引き上げ、新規国債発行額の抑制が狙いか>
NHKによると、26年度予算案の一般会計総額は、25年度の115兆1900億円から7兆円超の大幅な積み増しとなる。
市場が懸念している国債発行の大幅な増額を回避するために、政府が採用した方策の1つが税収見通しの大幅な増額だ。
25年度では、当初予算の段階で税収は77兆8000億円と見込まれ、その後に税収上振れが2兆9000億円あったとして80兆7000億円に増額された。
これまでの予算編成では、税収見通しを抑制的に置いて上振れ分をその後に明らかにするという「慎重スタンス」を採用してきた。
ところが、26年度予算案では当初予算の段階から税収見通しを大幅に引き上げた。筆者は、新規国債発行額を抑制し、マーケットの歳出膨張懸念を弱めようという狙いがあると指摘したい。
<国債費は31.3兆円と過去最大に、想定金利の引き上げで>
ただ、債務膨張の印象を弱めようとしても隠し切れないところもあった。利払い費を予算計上する際に使用する想定金利を25年度の2.0%から3.0%に引き上げた結果、国債費が31兆3000億円程度と過去最大となり、社会保障費の39兆1000億円程度とともに30兆円台の大台に乗せることとなった。
<G7の中で最も低い潜在成長率>
筆者は、大盤振る舞いの積極財政は短期的な景気押し上げ効果を伴い、株価上昇の要因になる点は評価するが、日本経済の根本的な「病巣」である低い潜在成長率の引き上げには大きな効果が望めないと指摘したい。
主要7カ国(G7)各国のうち、米国やドイツは1%台の潜在成長率を確保しているのに対し、日本とイタリアは1%を下回っている。中でも日本は0.5-0.6%という推計が多く、G7の中で最も低いと言っていいだろう。
<財政資金投入だけでは底上げできない成長力、国際競争力は35位>
高市早苗政権は重点投資投資対象として、AI・半導体、情報通信など17分野を選定した。26年度予算案でもこれらの重要投資分野に財政資金が優先的に配分されるとみられるが、財政資金を投入するだけでは日本の成長力を底上げすることはできない。
半導体分野の強化と言っても、エヌビディアに匹敵する半導体企業をこれから日本で育成することが現実的でないことをみれば、重点分野の企業の競争力をどのような手法、手順で強化するかというプランがなければ「砂漠に水をまく」という結果になりかねない。
実際、スイスの国際経営開発研究所(IМD)の2025年版「世界競争力ランキング」によると、日本は前年の38位からランクアップしたものの35位で、米国の13位、中国の16位、ドイツの19位、韓国の27位の後塵を拝している。
<成長に欠かせない労働力強化、具体策見当たらず>
さらに潜在成長率の押し上げに欠かせない労働力の強化という点でも、有効な手立てが講じられていない。生産年齢人口(15歳から64歳)は1995年の8700万人から2023年には7400万人に低下。
朝日新聞の推計によると、2025年に国内で生まれた日本人の子どもは66万8000人程度と、統計のある1899年以降で最少を記録。10年連続で過去最少を更新する見通しになっている。
この少子化問題に関する具体的で有効性のある政策は、今回の大盤振る舞いの予算案の中に見当たらない。
このままでは、日本の潜在成長率は労働力の低下という大きな制約を受け続け、低迷する可能性が高まるだろう。
<低成長と債務増大の悪夢、30年債利回りの上昇が鳴らす警鐘>
日本にとって最悪のシナリオは、積極財政で債務残高の累増が続くものの、潜在成長率の低迷が続いて数年後ないし10年後に低成長の下での財政悪化が顕在化していることだ。
マーケットは着実にそのリスクに対して警鐘を鳴らし始めている。30年国債の利回りは24日、過去最高の3.450%まで上昇し、その後も3.430%と高水準での推移が続いている。
長期金利(10年最長期国債利回り)も23日に2.030%まで低下していたが、24日に2.040%と小幅上昇した。
<注目すべき財投債の増額規模、円債市場に大きなインパクト>
26年度予算案の新規国債発行額は25年度当初予算の28兆6000億円から29兆6000億円へと1兆円の増加にとどまっているようにみえる。
しかし、そこには含まれない財投債の発行額が急増していれば、円債市場の需給に大きな影響を与えるだろう。
財投債の発行額がどの程度増えるのか、それが日本国債のイールドカーブ(金利曲線)に衝撃を生じさせるかもしれない。
