近藤理論を突き崩す(胃がん編)③生存曲線が上に凸となる理由 | がん治療の虚実

近藤理論を突き崩す(胃がん編)③生存曲線が上に凸となる理由

一定の割合で亡くなる患者の生存曲線は(近藤誠氏本人が信じるには)下に凸の曲線になるはずで、医者側の意図的行為が介入しない限り上に凸になる事はありえないと「抗がん剤は効かない」P.36で主張している。
その理由としては、ある被験者集団はある一定の割合で死亡する性質(死亡リスクという)を持っているから下に凸の曲線になるのであり、自身がかつておこなった舌がん患者の追跡調査論文を例に挙げて解説している。

死亡リスクが一定というのはどんな治療をしたのかしなかったのか区別していない雑多な舌がん症例群の長期追跡調査だから成り立つ話で、今回の胃がんのランダム化比較試験とは前提条件が根本から違う。

抗がん剤治療をしなかった患者群の曲線は死亡リスクが一定だから下に凸、抗がん剤治療群は抗がん剤で死亡リスクが低下したから上に凸の曲線になったのだ。

その原理をごく簡単に解説する(本当は複雑だがあくまで一般向けに単純化する)。


上に凸の理由1



固形がんは抗がん剤で一端縮小するのに、再増大して最終的に死に至る理由はなぜか?
それは抗がん剤に弱いがん細胞は消えていくのだが、次第に効かない耐性細胞が増えてくるためだ。
強力な抗がん剤治療では確かに消失するがん細胞も多い。しかしどうしても抗がん剤に耐えきる種類のがん細胞が残る。そしてその残ったがん細胞が増大してくると、一端小さくなったはずのがん腫瘤が再度増大して死に至るわけだ。



上に凸の理由2

しかしそれまでの期間は死亡リスクが減少する。つまり死亡する患者の割合が減ることになる。
これが下に凸の生存曲線を上に押し上げ、上に凸の曲線になる理由だ。

それでは耐性化したがん細胞にも効く新規抗がん剤が開発されたらどうなるか?



生存期間の延長


上図のように最終的に多剤耐性化したがん細胞が最後には死に至らしめるほどに増殖するだろうが、それまでに使用できる違った系統の抗がん剤があればあるほど延命期間を稼げると言うことがわかるだろう。