近藤理論の根拠を突き崩す④見つかった大腸がんを放置すると... | がん治療の虚実

近藤理論の根拠を突き崩す④見つかった大腸がんを放置すると...

文春新書「がん治療で殺されない七つの秘訣」より引用
【ケース15】健康そうに見える母が結腸癌と宣告されたが、手術は必要か?
⇒無症状の大腸がんに手術は必要なし。
質問---75歳の母親が、市の老人検診を受けたら、便に血が混じっていることが判明。内視鏡検査で「横行結腸がん」と言われました。腫瘍は3センチの大きさで、狭窄があるそうです。手術を勧められましたが、症状はなく、本人は手術を嫌がっていますが...

近藤誠氏による回答
~中略~
相談者の母親は、腫瘍によって大腸内腔が狭くなっている(狭窄)というのもので、筋層に達していることが確実で、いわゆる「進行がん」に分類されます。筋層に達したがんの手術後の5年生存率は通常70%程度ですが、75歳だとそれより低くなると考えられます。
~中略~
さらに以下のような理由で手術せずに放置することを推奨している。

・手術を受けなければ、合併症によって死亡する患者がおらず、そのぶん生存率が上がるはず。
・手術が大腸がんの進行を速める。
・手術の後遺症の癒着で腸閉塞や術後感染症をおこす。
・高齢者では手術の全身麻酔から醒めた後でぼけてしまうケースがある
・狭窄が進行して腸閉塞になった場合は内視鏡を用いて金属製の網目状のステントという器具を入れ、狭窄部を拡張できる。そこで危険を冒して手術を受けるかステントを入れたまま様子を見るか、もう一度考えるようにしましょう。
---ここまで引用および概略---

という回答を記述している。

各種がん検診の有効性については本稿では議題にしていないが、運良く見つかった大腸がんを放置するとは荒唐無稽すぎて本当に信用する人がどれほどいるだろう?

筋層に浸潤した大腸がんは進行がんのステージIIになっているが、以前記載したステージごとの術後生存曲線を参照してもらえればわかるが、放置して(あるいは気付かずに進行して)ステージIII, IVになると確実に生存率が下がることを記載した。
http://ameblo.jp/miyazakigkkb/entry-11744008068.html

つまり早く判明した段階で手術した方が治療成績が良いというのは、すでに多数の臨床データの結果として自明であり、近藤誠氏の理屈をこねた空想論よりはるかに説得力がある。

高齢者が手術後ぼけやすいというのは事実だが、その患者さんごとの状況で手術のメリット、デメリットを天秤にかけるべきであって、ぼけるから一律に手術すべきではないというのは乱暴な話だ。

また大腸ステントは近年開発されたもので、確かに大腸がんの狭窄症状に対して有効だ。
しかしそれは状態が悪く手術が望ましくないあるいは不可能なケースや、切除手術までの緊急避難的な意味で威力を発揮するものであり、がん放置療法のために推奨するというのは無謀すぎる。

その理由は以下の通り

・大腸は場所によっては腸管の屈曲がきつく、挿入留置が非常に難しい場合は少なくない。また屈曲が強い所では硬いステントの端が大腸粘膜あるいはがんそのものに押しつけられ、腸穿孔を起こすことがある。
非常に雑菌の多い大腸の穿孔は腹膜炎から敗血症になって手術しても助からないこともあるし、助かっても人工肛門をつけなければならなくなる。

・当方は救急病院に勤務しているが、腹痛、腸閉塞で救急受診した患者さんで進行大腸がんの狭窄が原因になっているケースがよくある。
これは検診を受けていない人(特に高齢者が多い)が、血便、腹痛、排便異常を放置した結果だ。便が詰まって腸が破裂寸前となってやってくると、大腸がん切除術を施行し正常な部分の大腸どうしをつなげようとしても、腸管の状態が悪いため、あとあと縫合不全を起こしやすくなる。
そのため一時的に人工肛門を造設しなければならない羽目になることが大変多い。

たとえ最初から転移があっても、将来腸閉塞の危険性があるなら大腸がん自体は可能な限り切除するのが医学常識なのに(しかも完治するケースが珍しくない)、わかってて放置療法を一般人に推奨するのは無責任すぎる。


近藤誠氏はたくさん医学論文を読んでいると豪語しているが、最近の実際の臨床現場の大変さを知らないから、のんきながん放置療法を唱っているのだろう。
文字通り「机上の空論」は医療界ではあきれられているが、その真偽が判別できない一般人にとっては非常に迷惑な存在と言える。