近藤理論の根拠を突き崩す①リード・タイム・バイアス理論の嘘 | がん治療の虚実

近藤理論の根拠を突き崩す①リード・タイム・バイアス理論の嘘


近藤誠氏の「抗がん剤は効かない」「がん放置療法」理論に疑念を持っている方、あるいは動揺している方々への処方箋とも言って良い新シリーズだ。

近藤氏のがん治療理論の組み立てがいかに信用ならないものかを解説する。
数多くの論者が言っているように近藤氏の理論(特にがん以外)ではそれなりに傾聴すべき事もあるのも事実だが、がん治療領域においては実害のほうが大きく、決定的に間違っている部分があることははっきりさせておく必要がある。

今回のシリーズは現実に治療を受けるがん患者さんに広く理解してもらうために、詳細な説明よりも明快さに重点を置いている。
そのため、氏の「がんと闘うな」「がん放置療法の勧め」で主張している内容で、確実に間違っているあるいはミスリード(mislead: 読者を誤った解釈に誘導するような記事や文章のこと)している項目を提示し、虚偽を明らかにしよう。

まずは前回記事で提示した大腸がんのグラフから始める。

①リード・タイム・バイアス理論では説明のつかない延命効果

近藤誠氏は抗がん剤の延命効果は証明されていない、早期発見、早期治療の意味がないとたびたび発言している。昔と比べて最近のがん治療では生存期間が延長して延命できているように見えるのは錯覚だと言っている。
その理由として、昔は大腸がんでは直径が10センチにもなって発見される肝転移はざらで、その場合は生存期間中央値は6ヶ月前後。しかし今では超音波検査、CT、MRI, PETなどの画像検査機器が次々と導入され、肝転移などは今では1cmでも見つかる。早く見つかって、早く治療した分だけ見た目上の生存期間は長くなっているように見えるというのだ。

また「がんもどき理論」で転移するがんは本物のがんで治療しても延命できないので意味がないし、転移しないがんは最初からがんもどきで、治療してもしなくても命にかかわらないから一見治療成績が良いよう見えるのだと主張している。
リード・タイム・バイアスの嘘


今回はまず、ステージI~IIIまでの大腸がん手術後の予後を集計したデータを提示する。

大腸がんステージ


さて今回提示したこのグラフは914例の大腸がん術後生存年数を示している。
stage(ステージ)分類とは大腸粘膜表面から発生したがんが、どれほど深く浸潤あるいは遠くへ転移しているかでがんの進行度を分けている。

進行度を分ける意味は予後(どれほど生き延びられるか)の違いを示す事にある。
早く見つけ早く治療する事でがんが治る可能性が高くなるのは自明の事だ。その理由は大きくなるほど転移する確率が高くなるから、その前に切除すべきで、術後再発率(再発したら根治が相当難しくなる)も下がり、治療成績が良くなるということから来ている。
これはずいぶん前から経験的にわかっている事だが、この治療後の生存曲線はその証左だ。

大腸がん術後経過1


術後5年過ぎあたりから、下降していた生存曲線がだんだん水平になってきているのがわかるだろうか?これは時間経過と共に死亡する患者が減ってきて、 早期に手術できた患者ほど完治しやすいことを意味している。

大腸がん経過2


もしがん治療に延命効果がなく 「がんもどき」、「リード・ タイム・ バイアス」理論が正しいとすれば、各ステージの生存曲線はオレンジ色の曲線のように時間と共に、より進行したステージ群の生存率まで低下するはず。 なぜなら早く治療開始しても死亡時期が変わらないということになっているから。 しかし現実にはどのステージでも5年過ぎると死亡数は下げ止まりとなり、ほぼ完治率が確定する⇒やっぱり早期治療のほうが延命効果、完治率が上がるのだ。

近藤誠氏は、手術するとがんが暴れ出すとか、理屈をこねているが、こういった結果の前では説得力は全く持ち得ないことがわかるだろう。

(ステージIV 肝転移例は次回紹介予定)