「朗読者」ベルンハルト・シュリンク著

 

 

 

15歳の少年が20歳以上の年上の女性と恋に落ち……という悲恋小説。

というとめちゃくちゃ肉欲フェスティバルな失楽園的なイメージが生まれるけれど、これは2人が非常に生真面目で、融通が利かず、(自分自身に対して)真摯であるがゆえにものすごく固い恋愛。

 

以下、かなりネタバレになるので自己判断で。

 

 

 

 

 

お固い恋愛……前半読んでそう思わないだろうけれど、後半でめちゃくちゃクソ重い2人の精神性が分かる。

ハンナがどの程度主人公を愛していたのかはいまいち分からんけど、とにかく融通が利かなくて視野が狭くて真面目で実直な人だったんだろうなあといちいち思わされる。

 

評判が高いのもうなずける。

ただ、日本人が読むなら前提知識として「フランクフルト・アウシュビッツ裁判」「アイヒマン裁判」についての知識はあった方がいい。

1回読んで面白かったから2回目、ってなるなら、是非その前に知識を入れて欲しい。

 

第二次世界大戦でナチスがユダヤ人虐殺を行う→戦後裁判が行われ、ナチスの幹部たちは裁かれた

ぐらいは誰でも知ってるだろうけれど、この2つの裁判は「上に従って(虐殺行為に)関与した普通の人たち」、そして裁判にはもちろんなってないけど「分かっていたのに見て見ぬふりをしていた殆ど全ての人たち」の罪の重さに自ら向き合う裁判となっている。

 

「アイヒマン裁判」のアイヒマンはナチスとしてユダヤ人大量虐殺に関与した人物。

逃げたけど捕まってイスラエルで死刑となった。

彼は裁判では「上に従ってやっただけ」と抗弁し、裁判に関わっていた人たちも「冷酷なサディストというより真面目で小役人的な男」という印象を受けた。

 

この裁判は大きな衝撃を与えた。

大量殺戮をしたのは冷酷なサディストであるナチスで、その暴走にドイツ国民は逆らえなかった……ということはなく、普通のドイツ人が一緒になって当然のこととして大量殺戮を行っていた。その「上に従って」やった人は、関与した人は、見て見ぬふりをした人は罪は無いのだろうか。

 

ドイツの(日本と大違いで)えらいところはそこで、連合国が裁いたニュルンベルク裁判が終わってから、自ら「我々自身の罪と向き合い、真に誇れる国にならなければならない」と下っ端の「普通の人である」看守たちも裁判で裁いた。これが「フランクフルト・アウシュビッツ裁判」である。

 

その知識があると後半のハンナと主人公の理解が一段深くなる。

ハンナは愚鈍なほど実直な人間だったのだろうと、裁判とその後の刑務所での生活を通じて感じる。

文盲である彼女は戦後、「過去の過ちはもう忘れたい」という風潮だったドイツが「罪と向き合おう」という風潮に代わったことも、自分がどういう状況にあるかも、文盲であることを必死に隠しているがゆえにきちんと認識しきれていないまま裁判を受ける。

そして文盲であることを恥じるがゆえに、自分の罪もきちんと理解できないまま、誤解を受け、陥れられ過剰に重い判決を受けた。

そして刑務所で、識字力を身に付け、ホロコーストの実態を知ることで内面に大きな変化があり、自罰的なふるまいをし、最終的には自殺してしまう。

他の被告がハンナに罪を擦り付けようとし、罪を否定してごまかしてきたのと対照的に生真面目に罪に向き合ったことが示唆されている。

 

語り手である主人公も生真面目で自らに良く向き合う人間であることが分かるが、ハンナも負けず生真面目で自らに良く向き合う人間だったのだろう。

彼女が「普通の人間として」ホロコーストに加担したこと。

人という生き物の持つ恐ろしさと悲しさが恋愛と混ざり合い、切ない色々なことを考える小説になっている。

 

 

 

戦前、日本には悪名高い「治安維持法」という、実際好き放題できる駄目法律があった。

現在日本で、9条改正しても、緊急事態条項入れても、「今の世情でそんなヤバイことにならないってww」と思ってる人は多いと思う。

個人的にはそう思わないかなあ。

ドイツのファシストも、日本の全体主義も、不完全ながら一応民主主義的なところのある国家から、国民の支持を得て生まれ、国民は普通にノリノリになって熱狂してしまった。

 

国民の意識なんてそんなもんじゃないかと思うので、「ゆるふわな内容の、政府に一任系の法律作っても大丈夫ww」とは全然思わんので、個人的には全然賛成じゃないです。9条改正やら緊急事態条項やら。

 

コロナの時だって見て見ろよ~~~

「生命に勝る価値のあるものはない(キリ)」

「政府は支援金を!経済停止を!」

「お金より命こそ大事!!」

って、経済も大事にしないとってこと言う人をフルボッコにしてさ~~~

 

実際インフレ円安増税来たら「ふざけんな!!」って。お前がふざけんなだよ。

どこから支援金の金出たと思ってんだよ。税金だよ。

経済停止でくらったダメージ、どこで補完されると思ってんだよ。税金だよ。

 

コロナ禍下で「補助金」「経済停止」を叫んだ人が増税に文句言うの理解できない~~~~

何考えて叫んでたんだ?

みんなが叫んでるからそんな気になって、深く考えてなかったんだろ~~~

 

人間なんてそんなものよ。

日本に自国から逃れてやってきた外国人……移民的なものに「自分の国に帰れ」「自国に不満なら自分で自国立て直せ」とか軽々しく言うヤツいるけど、君も絶対逃げるって。

アウシュヴィッツに閉じ込められてすら、多くの人は唯々諾々と従ってしまったのよ。

人間ってそういうものよ。殺されるぐらいなら……と決起するのって、本当に難しいのよ。

逃げる選択肢あればそりゃ戦わずに逃げますわよ。私も多分逃げるわ。

 

と、本の感想から逸脱した愚痴っぽい語りでした。おわり。