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 (作り話です)

実際に、わたしは栄一の部屋が好きだった。
滑りのよい部屋の木戸を開ければ、窓から射し込む陽光を受けて、特別あつらえの大きな勉強机と立派な地球儀が眩いばかりに姿を現せる。
静かに天井からぶら下がった傘つきの白熱電球や、部屋の隅に据え置かれた大振りの書棚の中の、世界各地の絵本や翻訳童話、子供向け小説など、見事なまでの品揃えとその質の良さには目を見張る。
とりわけわたしは、講談社発行の少年倶楽部がお気に入りだった。
小学校後半から中学校前半の少年向けに、当時、一流大衆作家の長編小説や読み物、漫画等を中心とした月間少年雑誌。
絵物語の挿絵にしても、特徴的な画法を以って現す人物画は一種独特な雰囲気を醸し出し、大きな人気を博していた。
佐藤紅緑の「少年連盟」や「少年賛歌」、佐々木邦の「村の少年」など、漢字の読めないわたしに、時折読み聞かせてくれる女中キミの横顔を眺めながら、すっかり想像の世界へと嵌まり込んでしまうのだ。
児童向けの絵本や童話にしても、世界各国、多種多様な文化や歴史、風光明媚なとりどり風景や建物を画く総天然色挿絵には大いに心弾ませる高級手作り感。
待望の長男栄一が誕生し、そのとき父母は、一体わが子の未来に何を想い描いたかは決して想像に難くない。
ようやく栄一が足も据わってそちらこちらを這い回る頃には、家人の誰彼となく絵本や童話を買い求め、詠み聞かせていた。
時に、初めての内孫を愛おしむように祖父が、大切な跡取りを育むように父母が、そして、まるで我が子にそっと語りかけるように女中のキミがそうだった。
キミは、教育を受けた女性だった。

「ウィキペディア」「豪雪を生き抜いた農民たち」「国史大事典」「あゝ野麦峠」等を参考にさせていただきました



長野県境に程近い、天水連峰の窪地は今を盛りに強烈な陽射しが降り注ぎ、どんよりとして、すり鉢状の淀んだ高温多湿の空気はどうにも息苦しく、冬は冬で、年の瀬から舞い落ちる冬の知らせがそのまま根雪ともなれば、ひとの身の丈をゆうに超える積雪なぞ五月の声を聞かずして決して消えることなどあるまい。
火山灰の堆積した斜面こそ、耕作しにくい狭く歪な棚田と日本有数の地すべり地帯。
それにしても、郷土の先人たちは、おいそれと山を下りる算段などしなかった。
小半年も近く、一歩として外に出ることままならない辛く長い冬だからこそ、春の予感に心ときめかせ、いまだ融けきらない畦から顔を覗かすフキノトウを慈しみ、新緑の眩しさやカジカにホタルに、目にも染み入る実りのブナかカエデの葉か、はたまた、手塩にかけてようやく育った米一粒の張りとてり具合の喜び等など、察するに難くない。
日本とて、狭い国土ゆえの資源の乏しさとを努力と工夫で世界に冠たる産業国家へと押し上げ、近隣諸国からの様々な圧力を毅然とした対応で一切争いごとを起こさずに七十年。
時に耐え忍び、ここぞという時には全力で立ち向かう、この国とひとびと。
国民一人ひとりが、日本人としてに大いに誇ってもよいのではないだろうか。
こんな折、自身のルーツを辿ってみてはいかがか。

改めまして、「毎日、お暑うございます・・・」
帰省ラッシュにUターンラッシュ、ほんとうにお疲れ様でした。
旧盆が過ぎたとはいえ夏の太平洋高気圧の勢いは、一向に衰えを見せないもようです。
皆様方もこの際、衰えをしらない自身の篤さを楽しんでみてはいかがでしょうか。

くれぐれも、ご自愛下さいますように・・・