知的障害を伴う自閉症の彩夏、現在20歳。
今年は、知的障害者就労継続支援事業所の3年目の遠足に、気持ちの上では抵抗なく行けました。
しかし、遠足日の前日、これまで使っていた黒いトートバッグがゴミとして捨てられていました。
そして、彩夏は家のどこかで見つけた、黒いトートバッグよりも二回りほど大きく新しい不織布の手提げバッグに荷物を移し替えていたのでした。
ここは、まあ…と大目に見てやり過ごしたのでした。
翌日、遠足の日のことでした。
彩夏には、荷物に関してこだわりがあります。
彩夏は自分の荷物は寝る時には側にないとダメで、朝持っていくそれらをリビングのソファーの上に並べています。
いつもの通所のものよりは少々小さめのクマさんリュック(これはお約束のもの)、そして、前日荷物を移し替えた不織布の大きな手提げバッグ・・・・と、ここまでは私の想定内でした。
なんと、その荷物の横に、ボストンバッグが鎮座しておりました。(え~!!)
「彩ちゃん、この荷物多いんじゃない?このバッグパパのだよね。パパの仕事場に行くなら持ってっていいけど」
『彩夏、遠足行く。ボストンバッグ、パパの。返します」
慌ててボストンバッグから荷物を取り出していました。
そこに入っていたのは、もう一つのパンパンに荷物の入ったトートバッグと何やら荷物の入ったレジ袋。
そして、彩夏はボストンバッグをもとの場所へ片付けてから、ボストンバッグから取り出した荷物を、今度は大きい不織布の手提げバッグへ入れこもうとし出したのです。
「彩ちゃん、カバン、破れちゃうよ」
彩夏にしてみれば、100円ショップで買ったバッグであろうと、新しい大事なバッグ。
破れては大変と、そこはこだわりよりも理性が勝ってスムーズに諦め、荷物を和室へ置きに行きました。(ふ~!)
今年は、なんてスムーズなんだろう‥‥と、彩夏が遠足に持っていく荷物が決まった瞬間、思ったものです。
ちなみに、事業所の遠足は日帰りです。(念のためにお知らせを・・・)
しかも、彩夏以外の利用者さん達は、バッグには連絡帳、水筒、タオル、この日は財布が入っているくらいです。
そして、彩夏の荷物ですが、リュック以外は、観光バスの荷物置き場に置かれます。
みんなの座る座席の下の広い空間に、もしものための車いすと彩夏の荷物だけが、ポツンと置かれています。(笑)
そして、この日はゴミ出しの日でした。
私はゴミを出したついでに、少し時間があるからと、庭の落ち葉を拾い出したのですが、少しこもった彩夏の「お母さーーーーーーん」と、やや悲痛な叫び声が何度も聞こえたのでした。
顔をあげて見れば、リビングの窓の向こうに彩夏がいて、叫んでいたのでした。
いつもならもう出かける時間と思った彩夏は、不安定になっていました。
いつもと違うことは、納得していなければ、彩夏は受け止められません。
もうリビングの壁掛け時計が9時を示していたので、彩夏は不安だったようです。
「彩ちゃん、遠足だから、家を出るのは9時10分だよ」と声をかけました。
前日のやり取りを思い出したのか、彩夏は落ち着きそのまま窓から離れていきました。
事業所に着くと、まずは職員の方にあいさつの後、朝のボストンバッグの件を伝えました。
そこにいた数人の職員の方たちは、顔をくしゃくしゃにして笑っていましたね。
それでも「いつもより、荷物が少ないね」と、ここは彩夏を褒めてくれました。
そして、みんなの関心事は、彩夏がお土産にクマのぬいぐるみを買うのかどうか・・・・。
そして、彩夏の取った行動は・・・・、別のお話で!
晴天に恵まれ、気持ちの良い遠足にはうってつけの秋晴れの日でした。
「彩夏、行ってらっしゃい!」
(続く)