2016.5.4 Weds.







「今日はね…。
 お母さんの誕生日なんだ。
 お祝い、付き合ってくれる?」

アン◯ノールのホールケーキに『35』のキャンドルを灯して、洋室の出窓に飾った。二宮くんが優しくグランドピアノを弾く。


♬…Happybirthday,dear翠…♬
 ♬…Happybirthday to you…♬


透き通る声に聞き惚れる。
そうか、だからココに帰ってきたのね。



歌う彼の頰に一条の涙が…。

初めて見る彼の涙は…
まるで真珠のようにこぼれ落ちた。


今まで何があっても、
…図書館で別れたときも卒業式でも…
涙を見せたことはなかった。
お母さまの危篤の知らせを聞いても、
亡くなってしまったお葬式でも…

どんな時も完璧な優等生スマイルを見せていた。そんな彼が私の前で無防備に涙を見せてくれるなんて…。

もしかして私の前だから?
…なんてちょっと思ってみる。



いや、そんな訳はない。





転校してひと月半…
── 彼は変わった。