2016.夏
夏が始まって、日々がどんどん過ぎて行く。
雅紀と勉強している。
高2の夏、進路を決めるにはちょっと遅いくらいだ。
進路指導は医学部だった。
理系クラスの代表的な進路だ。
確かにそれも興味深い。
成績は問題なし。
お祖父さんは病院長だし。
担任と教務主任は至極まっとうな指導をしてくれた。お祖父さんも親父も…オレは医者になるって思い込んでいる。オレ自身、病院の跡継ぎイコール医者って思っていた。
けれど…オレは親父のように経営をやりたい。
オレが経済学部に進みたいと言ったら、二人とも何とも言えない表情を見せた。
一番分かりやすいのはお祖父さん、あからさまにガッカリしてボソッと
「お前もか…。」
と呟いた。
親父は元々医者を嫌って銀行マンになり…お祖父さんが創った地元の個人病院を大きくして総合病院にした人だ。
賛成か反対か自分でもよく解っていないのだろう。喜怒哀楽をごちゃ混ぜにしたような顔で言った。
「病院のことは気にせず、好きな道を選べばいい。もちろん父さんのことも気にするな。」
一番意外だったのは母親だ。
「あらそう?じゃあそのまま上に上がる?
国立大も狙えるならどこにするの?」
「え、反対しないの?」
「反対して欲しいの?」
「いや、オレを医者にしたかったんじゃないの?」
「え?全然よ?
翔がお義父さんの顔色を見るかと思ったけど、むしろよく言えたよね?」
「医者になりたくない訳じゃないんだよ。」
「あら、貴方は向いてないわよ。」
「えぇ?オレ向いてないの?」
「翔は何でもできるけど、基本ヘタレなんだから。」
「っておい!」
「ゴメンゴメン、冗談よ。でも、医者よりやりたいことがあるんでしょ?跡継ぎとか気にすることないわよ。」
「いや、錦野総合病院はちゃんと継ぎたいんだ。」
「そんなのもっと後で考えたらいいの。
大事なのは貴方がどうしたいかよ。
本当にやりたいことを見つけて?
家とか親とかのせいにしないで欲しいの。」
「ん、サンキュ…。」
あんなにミーハーで調子良いから、息子が医者とか病院の跡取りとかもっと気にするかと思ってた。そういえばミーハーだけど見栄っ張りではないもんな。
実は自分でもモヤモヤしてた。
医者にもなりたい。
でも経営学も学びたい。
「大事なのは貴方がどうしたいかよ。
家とか親とかのせいにしないで欲しいの。」
なんか母親ってすごいな。
どうせ出遅れているんだ。
もう一度、オレ自身を見つめ直すか…。
人生、まだまだ先の方が長いんだよな。