こちらもやっと最終話です。

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2016.3.17 Thurs.






卒業式と謝恩会が終わった。

結局、自分からは転校することをみんなに伝えられなかった。一番迷惑をかけた鈴木くん、いつも隣で助けてくれた黒木さんの二人にだけはホワイトデーに打ち明けたけど、二人とも他の人には秘密にしてくれたようだ。

R学園での3年間──。
部活を免除してもらって、欠席や早退を繰り返し、クラス委員長と学年代表の役割も最小限しか果たせず、迷惑をかけてばかりだった。
お母さんが倒れて、亡くなって、良くない思い出も少なくない。
同級生達には散々迷惑をかけたから、できるだけひっそりといなくなって、できればみんなに私のことなんて忘れてもらいたい。上級生の方々にもお礼のしようがない。だから黙って転校しようと思ったのに…。

謝恩会で先生がみんなに伝えてしまい、ひと言挨拶をと言われた時、とっさに詫びるしか出来なかった。


先生方はもちろんクラスのみんな、同級生のみなさん、先輩方、後輩のみんな、キチンとお詫びできず申し訳ありません。
 みなさんに良くしていただいて嬉しかったです。本当にありがとうございました。
 お世話になりました。感謝しています。
 R学園での3年間は忘れません。
 ありがとう、さようなら。」



感謝の気持ちは伝わったのだろうか。R学園のみんなは本当に優しく温かかった。
絶対に忘れない。



明日は引越、でもその前に─。








A駅に降り立つのは始業式以来だ。
久しぶりに本家へお祖母様を訪ねる。
直接会って話すのは、2月にヒロコさんから秘密を知らされてから初めてだ。転居のこともお父さんが伝えてくれ、私は直接話せていない。




「こんにちは。」
「いらっしゃい。
 和也、卒業おめでとう。」
「おめでとうございます、和也様。」
「ありがとうございます。」

「お祖母様、長い間お世話になりました。
 明日、引越する予定です。」
「そう…。誠治さんは?
 卒業式は参列したんでしょ?」
「いえ、忙しいみたいで…。
 今夜中には帰って来てくれます。
 明日は11時に荷物を運び出す予定です。」
「お手伝いに伺いましょうか?」
「ヒロコさんも色々ありがとう。
 らくらくパックにしたので大丈夫です。
 大きな物は私のピアノだけです。作り付けの家具はそのままで、衣類とかの中身だけだし。食器類も半分位、普段使いのものしか持って行きません。ハウスクリーニングも付いてますから。」
「和也、独りで準備したのね。」
「転居先の準備はお父さんが全部してくれましたから。割に広いマンションのようで、新しいベッドや家電製品も入れてくれたみたいです。」
「日用品と食器類は来客用のものも準備したほうがいいわ。新しく知り合いが増えるかもよ。」
「そっか、そこまで考えてませんでした。
 今から追加します。
 お母さんお気に入りのティーセットとか、カップボードのものはそのままに…。」
「そうね、それで良いわ。
 それにしても…貴方は甘えるのがホントに下手ね。」
「そうですよ、もっと使って下さい。
 私だけでも明日は伺いますよ。
 ベッド類もそのままならシーツやら洗濯物も出るでしょうし。」
「うわ、それもあった。ごめんなさい。
 えっと、お願いします。」
「謝るなんて、そんな…
「あの、実はまだお願いがあって…。」
「なぁに?」
「なんでも言って下さいませ。」
「留守宅の管理、セキュリティは今まで通り警備会社に頼んであります。お庭も季節ごとに双葉造園さんにお願いしました。」
「今まで通り、ウチと同じなのね。
 なら良かった。安心だわ。」
私の勉強道具がなくなるくらいで、帰ってきたときすぐ暮らせるようにしておきます。
 だから、あの、たまに空気の入れ替えとか植木の水やりとかをお願いします。それから…お母さんのピアノ…。」
「最後に調律したのはいつ?」
「半年前、一時帰宅が決まってすぐにお願いして…。だから次は今年の9月ごろかなって。」
「承知しました。お任せ下さい。」
「あとは……。」



違う。
こんな事務的な話をしに来たんじゃない。
お母さんが逝ってしまってからギクシャクしてしまったけど、大切な一人娘の子ども、二宮家の跡取りだと、昔からいつも気遣って大事にしてくださった。
周りがどう見ていたかは解らない。
ただ、お祖母様と私には同じ希望があった。
お母さんを笑顔にして『一日でも長く生きて欲しい』と。そのためにあらゆる努力をしてきたんだ。ある意味『同志』だった。

それに『孫』として可愛がってくださった。
私は『お祖母様』が大好きだ。
心から思う。
貴女の孫で良かったと。



「夕食、食べていきなさいね。」
「や、まだ片づけが残っているのでそろそろ帰ります。」
「もう? そう…そうね。
 『今生の別れ』ではないものね。」
「はい。ではヒロコさん明日お願いします。」
「承知しました。」


玄関口まで見送りにきてくださった。


「和也、気をつけてね。
 誠治さ…お父さんと仲良く、ね?」
「お祖母様も体に気をつけて下さいね。
 15年間、ありがとうございました。」



気づけばお祖母様に抱きしめられていた。


「あの…。」
「和也…。
 あなたが生まれてくれて良かった。
 本当にありがとう。」
「お祖母様…。」
「必ずまた会いに来てね。」
「私は…ずっと……。
 ……お祖母様……大好きです。」



お母さんを通さずに初めてちゃんと向き合ったかもしれない。もっと早くこうすれば良かった。

ハグなんて…
おそらく最初で最後になるだろう。
そこには確かに慈愛の心があった。










明日から新しい暮らしが始まる。
もちろん今までのことも大切にする。
たとえ秘密があったとしてもそれがお互いを護る為なら必ず守ってみせる。

今は晴れやかな気持ちだ。






さぁ、新しい環境で
── 新しい自分がみつかると信じて。







~~~  Fin. ~~~
秘密 ~Lotus~






二宮サンの転校前、中学時代のお話でした。
いろいろあっても全てを受け止め、
アイドルスマイルで包み隠す、
ニノちゃんの少しミステリアスな魅力に重ねてみました。

少し前後しますが、ここからこのシリーズ最初の『このままもっと』につながって、やっと他メンバーが出てきます。ひとりひとりのキャラクターにこだわり過ぎてまわりくどいストーリーですが、すべて私の希望と妄想で作り上げておりますのでご理解下さい。

やっと本編に戻ります。
近頃、何人かの方が一気読みしてくださっているようで嬉しいです。1年以上書いてますので微妙に食い違いなどあるかと思います。素人なのでお許し下さい。あ、教えていただけると有り難いです。

これからもよろしくお願いいたします。


2018.1.12 Fri. 
sorenishiyou