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──水曜日──
ニノの付き添いでやってきたクラブ棟の軽音部には、櫻井先輩が3人の仲間とまちかまえていた。
先輩たちがピアノの実力を知るため、部室の小さなキーボード前にニノを押しやった。
「じゃあ、ちょっとだけ…。
昔、よく母が歌ってた曲を…。」
ニノが突然、でも静かに…歌い出した。
♪人はみな心の岸辺に
手放したくない花がある♪
♪それはたくましい花じゃなく儚く揺れる一輪花♪
♪花びらの数と同じだけ生きていく強さを感じる♪
♪嵐吹く風に吹かれてもやまない雨はないはずと♪
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ピアノ曲を弾くかと思ったら、男性デュオの曲のサビをサラッと口ずさんだ。
涙が出そうになった。
「すごい…。」
「上手いな。」
「な、ボーカルやって?」
「はぁ?」
「もちろん、ギターでもドラムでも好きな楽器やって構わないから、ボーカルもやってください!」
「え、私がですか?」
「「「お願いします!」」」
「松本!頼む!マネージャーだろ?」
「はい、え?」
「えっと、潤くん…。」
「松本!」
「あ、うん。ニノ、やろうよ。」
「潤くぅん!」
高2の4人に詰め寄られ、押し切られた。
でも、一番望んだのはオレかもしれない。
さすが“Perfect Fairy”だ。
いったい何が出来ないんだよ?
先輩たちが取り囲んで質問攻めにしている。ニノは耳まで真っ赤になって、懸命に答えていた。
「すいません。今日はもう失礼してもよろしいでしょうか?」
「なんだ松本、マジでマネージャーなのか?」
入部することになったんだから、今日のところは退散するに限る。
「心配しなくてもニノは大丈夫です。
S学院ではオレがついていますから。」
大野さんに啖呵を切ったし、
マジでマネージャーやらないとな。
なかなか大変な仕事になりそうだ。
無防備に魅力を振りまく“Perfect Fairy”
君の笑顔を守りたい──。