キュ、キュキュッ



スタン スタン スタン



パシン パシン




・・・




コートは選手達がアップを始めている。



シューズの音

ボールを受け取る音

キーパーがボールを弾く音



僕は試合が始まる前の、アップ風景が大好きだ。



昔、バレーボール観戦に足を運んでいた事もあり、インドアスポーツの懐かしい雰囲気が漂ってくる。



選手名を覚えていない僕は、大変失礼ではあるが、体付きや髪型で選手達を追ってみる事にした。



大同特殊鋼は一通り見渡して見ても、『洗練されたスポーツマン』って感じだったが、対する湧永製薬には個性的な選手が多く見受けられた。



湧永製薬では

東長濱秀作
渡辺正樹
山口修
下川真良
武藤剛
山中基


特に武藤は坊主頭の上、後頭部に湧永の『W』の文字だけ髪の毛を残している。




大同特殊鋼の方も体格で優れた選手が多い


富田恭介
千々波英明
武田亨
岸川英誉
地引貴志


再予選で活躍した末松誠やペク・ウォンチョルがきゃしゃに見えてしまう程に大きな選手が目立つ。




さて?

プレーオフの鍵を握る選手は、この中にいるのか?





応援団席を見渡すと、大同はお揃いの黄色のミニフラッグを左右に広げながらの応援。



湧永も、みんなでお揃いの赤いTシャツを着ながら、カスタネットを鳴らして声援を送る。




音楽が止んだり、会場アナウンスが流れたりすると、体育館の中はそれに呼応されるよう、急に静かになったり騒がしくなったりする。


まだか、まだかと!



そして体育館の中は暗転し・・・



選手入場!



選手一人ひとりがコールされコートに整列した!!


君が代が斉唱され、


いよいよ・・・



試合開始!!



ピーーー!!



今、試合開始のホイッスル!!


スローインです!!!



心臓の鼓動

歓声

応援団の太鼓



僕が感じるすべての音は、今、一つの塊になって頭に響く!



僕は会場の雰囲気に完全に飲まれ、目の焦点が合わない内に、大同のボール回しがもう始まっている!!




右利きのペクがトリッキーに左手でシュート!


残念ながらGK坪根の正面!



続いて折り返し、湧永の攻撃。


湧永の選手が僕がいる方に走って来る。


僕の席は大同ゴールの斜め後ろだ!


湧永でひときわ体格のいい選手、山口修が大同のディフェンダーにウインクをしながら手をパシンとタッチしてポストのポジションに入る。


彼は再予選の際、誰も寄せ付けない程の気迫溢れるプレーを見せていた。
しかし、彼の人格がこの一瞬に垣間見たようにも見えた。



しかし湧永のボールが手に着かず、再び大同の攻撃。



長身の武田が角度のない所からサイドシュートを決め、大同が先制!



続いて湧永の攻撃

ポストの山口にパスが通る!

GK高木が前に出る!


ピーピーピー!


大同、武田がシュート体制への妨害で、湧永の7mスロー!!


山口は相手ディフェンダーに、これまた何とも言えない目線を送りながら味方シューターにボールを渡します!



大同のGKは高木に変わり『7mキラー』、長身の荻田圭が出てきます!


荻田はレギュラーシーズンの7mスロー阻止率は通算0.252で、ごく標準的な数字しか残していないが、プレーオフではなんと!
阻止率40%を越えるている!!


まさに『プレーオフの名物男』だ!!




そしてシューターは東長濱!

体を一回転して足元にシュートを叩き込む!


決まったー!


同点!


回転してのド派手なシュートに、会場は湧きに湧きます!



会場は湧いていますが・・・


長身キーパーの泣きどころ、『足元』へのシュートが、今後の試合展開を大きく左右する。
その事を会場の誰もが今は知るよしも無い・・・




その後、坪根、高木が互いに好セーブを見せ、


前半6分24秒
大同3ー3湧永


で、再び山口が7mスローを獲得する。

山口はやはり同じように、相手ディフェンダーに「ニコッと」しながら立ち上がる。


山口は試合をコントロールしている・・・


そして、「もっと俺に掛かってきてもいいんだよ」と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべている。


そして再び7mスロー

大同のGKは高木がそのまま入る!

湧永のシューターは東慶一!


今度はどこに?




・・・




股下(またした)ーー!



GK及びシューターも変わっているが、『裏の裏』を掻いたのか、またもや足元でした!




試合をコントロールしてるといえば、大同ではこの人!

GK、高木尚!


大同の攻撃中にはセンターライン近くまで前に出て、味方オフェンスに後ろから指示を送る。

ファインセーブの後にはベンチ側に行き、荻田が差し出すドリンクを口に含みながら指示を仰いでいる。

最初は、
「え!?そんなにゴールから離れて大丈夫なの?」
とも思いましたが、なんだか安心して来るんですよ!大同ゴールが・・・

彼は余裕を見せながらしっかり仕事をし、味方チームに安心感を与えているのでしょうか?




そして試合の行方は・・・?


時間は進むが、両チームのGKが踏ん張り、互いに点が伸びない!

しかし湧永、坪根のキーピングが更に冴えを見せ始め、古家、下川の速攻が決まる!

更に7mスローでは高木、荻田の足元を徹底して狙い、リードを作る!


大同も負けじと、得意の『どこからでも仕掛ける攻撃』で、なんとか食らい付き・・・



大同14ー15湧永


で、前半戦を折り返した。




~続く~