田村厚労大臣が、10日の記者会見で、次の公的年金改革に向けて、基礎年金の水準低下を抑えるための新たな仕組みを検討することが話題になっています。現場は、

 

 この問題は、私が、厚生労働委員になった2019年秋、臨時国会で検討を求めてきました。国民年金勘定と厚生年金勘定を統合すれば、年金減額のマクロ経済スライドの調整期間が短縮し、基礎年金が国庫負担が増え、国民年金も「モデル世帯」の年金も改善される。国際医療福祉大学教授の稲垣誠一先生から試算をいただき、国会で披露しました。当時の加藤大臣の答弁は、私の提案を否定はしませんでしたが、肯定もせず。たしか、日経新聞が私の提案を、突飛と思われるかもしれないが、と報道しました。

 

 その後、わが党の政策委員会のメンバーが、財政統合の効果について、独自に試算も雑誌「前衛」に発表しました。一部の高額所得者をのぞき、ほとんどのサラリーマン世帯にとって現行制度より、改善することも試算で明らかになりました。

 

 2020年12月25日、厚生労働省は、国民年金と厚生年金のマクロ経済スライドの調整期間を一致した場合の試算をだしました。厚生労働省のホームページにあります。一読の価値があると思います。(社会保障審議会 年金数理部会 厚生労働省追加提出資料)

 

 ひとつは、「モデル世帯」の年金水準が、どうなるかが示されています。(下はケース3)

 

 

 2019年度の所得代替率は61.7%(所得比例部分:25.3% 基礎年金部分36.4%)です。

 マクロ経済スライドによる給付調整終了後の所得代替率はどうなるか。

 現行制度40年加入の所得代替率は51.0%まで下がります。(所得比例部分は2025年まで削減が続き24.5%。0.8ポイントの低下。基礎年金部分は2046年まで削減が続き26.5%、約10ポイントもの低下です。)

 一方、比例部分と基礎年金の比例部分を一致させた場合は、マクロ経済スライドの調整期間は13年間短くなり、モデル世帯の所得代替率は55.6%となります。現行制度より4.6ポイント改善します。(比例所得部分は22.6%、基礎年金部分は32.9%。基礎年金部分の目減りは現行制度よりかなりおさえられます。比例所得部分は現行制度より、1.9ポイント下がります)

 

 もうひとつは、年収いくらまでの世帯が、現行制度より改善するのか、示されています。

 

 厚生労働省の試算では、2019年賃金水準で、夫婦2人で、賃金が月150万円、年収1,790万円 (1人あたり年収890万円)の世帯が所得代替率が、上がるか、下がるかの分かれ目です。ここで示されている年収は、ピークの年の年収ではなく、年金を納める40年間の平均の年収額と考えていただければと思います。夫婦で40年間の平均年収1790万円をこえており、年金額の目減りが現行制度より若干大きくなる人は、厚労省は数%と答弁しています。数とは5よりも小さい数です。

 

 サラリーマン世帯の95パーセント以上は、基礎年金と厚生年金の勘定を統合した場合、現行制度より年金は改善され、メリットがあります。

 

 なぜ、そんなことがおきるのか。

 現行制度の仕組みをまず説明すると、マクロ経済スライドは、100年後に1年分の給付に必要な積立金が残るように、年金水準を引き下げる仕組みです。現在の仕組みは、その際、2段階で計算します。まず、国民年金勘定で100年後に1年分の積立金が残るよう、基礎年金の水準の減額調整します。国民年金勘定の財政状況はよくないので、長期間にわたる減額がつづきます。基礎年金は、厚生年金の1階部分ですから、基礎年金が減ればへるほど、厚生年金勘定から基礎年金勘定への支出が減ります。その支出がへった分、所得比例部分は減額調整期間が短くなります。

 しかし、よく考えてみると、基礎年金は、厚生年金の方の年金の1階部分でもあるのに、なぜ、国民年金勘定にもとづききめるのか、合理的な根拠があるとは思えません。また、この制度発足時は、政府は、基礎年金と所得比例部分は、調整期間が同じになるであろうという想定をしていました。

 基礎年金と所得比例部分と、調整期間が同じにすれば、どうなるのか。例えば、国民年金勘定と厚生年金勘定を一本で財政調整した場合、基礎年金の減額幅は小さくなります。基礎年金の2分の1は国庫負担です。基礎年金の減額幅が小さくなるということは、未来にわたって国庫から年金会計への支出がその分、現行制度より増えるということになります。

 厚生労働省の試算では、2115年時点での基礎年金の国庫負担は、現行制度では42.8兆円、財政統合した場合の同年の基礎年金の国庫負担は、53.2兆円。10兆円強、国庫から年金会計への支出が増えることになります。

 つまり、国民年金勘定と厚生年金勘定の財政統合は、国庫から年金会計への投入が大きくなるという効果をもたらします。

 この財政効果によって、マクロ経済スライドによる調整期間は短くなり、結果として、現行制度よりも、大多数のサラリーマン世帯でも年金水準の改善をもたらします。

 

 田村大臣がめざしている案が、私が提案し、厚労省が昨年末に試算した、国庫負担の増加をもたらす方式であるのであれば、そのことをわかりやすく発信することを求めたい。国庫負担の増加にはまったくふれず、厚生年金保険料を国民年金にあてるだけのような報道により、誤解が広がり、この案がたちゆかなくなることは、大多数のサラリーマンにとってもマイナスになります。