1ばんどうろ。
マサラタウンから続く道はこの道だけなので、次の街まで迷うことはないらしい。

私はオーキド博士からリュックと一緒にもらった腰のベルトについている、赤白ボール…モンスターボールの存在を何度も確認しながら歩いていた。
持っているモンスターボールは6つ。そのうちの1つにはヒトカゲが入っている。

何だか変な感じ。
失くした記憶の中に、デジャヴのような…だけど全く違うような、そんな感覚が私を襲う。

気を紛らわそうと、私はモンスターボールからヒトカゲを出してみた。
出されたヒトカゲは不思議そうに私を見上げる。

「改めて、よろしくね、ヒトカゲ……いや、名前を付けようか。えっと……」

私はヒトカゲを抱き上げながら考える。

「ヒトカゲ…ヒト、カゲ……ヒ、トカゲ…う~ん」

さんざん悩んで、

「よし、オレンジ色だから、『だいだい』に決定!」

安直。
でもヒトカゲは気に入ったらしく、喜んだ声を上げてくれた。
この子とは上手くやっていけそうだ。

その時、近くの草むらがガサガサと動いたかと思うと、何かがこっちに向かってとび出してきた!

コラッタだ。
図鑑を手に取ってデータを見るよりも早く、私はポケモンの名称を当てた。

コラッタはこっちに向けて戦闘体制をとっている。

「ようし、バトルだよ。いけっ!だいだい!」

だいだいは威勢良く身構える。

「だいだい、ひっかく!」

私は図鑑を開き、だいだいの技を見ながら指示を出した。
するとだいだいのひっかく攻撃は、見事コラッタに命中。
次にコラッタの反撃。むこうの技はなきごえだ。

「だいだい、もう一度ひっかく!」

またも命中。
コラッタはフラフラだ。

「いまだっ!」

私は空のモンスターボールをコラッタに向けて投げた。
ボールはコラッタに当たると、その中にコラッタを入れてしまった。
コラッタの入ったボールは、左右に揺れながら開閉スイッチの部分を赤く点滅させている。

私は息を呑んで見守る。

しばらくして、赤い点滅が止んだ。
つまり、野生のポケモンの捕獲に成功したのだ。

「やった!!」

私はボールを拾って喜んだ。
記念すべき初ゲットだ。
だいだいも一緒になって喜ぶ。
「だいだい、初勝利・初ゲットだよ!よくやったね!」

だいだいを誉めた後、私は今捕まえたばかりのコラッタをモンスターボールから出してみた。
コラッタは、さっきまでの攻撃的な様子はなく、大人しく私を見ている。

「きみもこれから私たちの仲間だよ。名前は…えっと、何が良いかなぁ」

コラッタはわくわくした様子でこっちを見ている。

「歯が真っ白でキレイだから、『ましろ』!よろしくね、ましろ!」

安直な名前を付けられたコラッタは、微妙な顔をした。
この子はちょっと厄介な子かもしれない…。

新しい仲間を加え、私は次の街へ向けて歩みを進めることにした。
いきなり「強くなりたい」なんて言われても、普通困るだろう。
私だってよくわかってないのに。

「えっと…その…信じてもらえないかもなんだけど…」

私は恐る恐る切り出した。

「私、気を失ってる間に、声を聞いたの。その声が、望みを叶えたければ強くなれって言ったの…。だから私……」
「なぁんだ。じゃあリンはオレと同じだな!」

サトシの急な返しに、私は目を丸くした。

「オレ、最強のポケモントレーナーになるのが夢なんだ!そのためには、もっと強くならなくちゃいけないんだ!」

最強のポケモントレーナー…。
その言葉は、強く私の胸を鳴らした。

「じゃあリンはオレのライバルだな!」
「ふむ…。なるほど。それはそれで面白いの。どうじゃ?リン、サトシ同様、わしからポケモン図鑑を受け取って旅に出てみんか?」

オーキド博士の提案に、私は二つ返事でかえした。
旅をすることで記憶が戻るかもしれない。
旅をすることで強くなれるかもしれない。
私の胸は高鳴った。

「図鑑を持つことによって、わしがおまえさんを保護した証にもなるじゃろう。代わりに、おまえさんは図鑑のデータを集めてくれ」

そう言って、博士は私に手のひらサイズの赤い機械をくれた。
「そのポケモン図鑑はわしの発明でな、ポケモンと出会う度にそのデータが集積されていくというものなんじゃ。わしの研究のためにもデータ収集をリンにも頼みたい」

なるほど、これがあれば私は旅に出ても博士の名前を出せば警察に保護されるようなことはないし、かつ強くなるための手助けにもなる。そして博士はポケモンのデータを手に入れることが出来る。
一石二鳥にも三鳥にもなるという寸法だ。

「それから…」

博士はポケットから赤と白のボールを取り出した。
サトシがフシギダネを入れたあのボールと同じだ。

「おまえさんはポケモンを持っていないようじゃし、わしとしても是非こいつを連れて行って欲しい」

そう言って博士がボールの真ん中のスイッチを押すと、中からオレンジ色のポケモンが現れた。

「ヒトカゲ!」

私は思わずそのポケモンの名称を叫んだ。

「ん?おまえさん、このポケモンの名は分かるのか?自分のことは覚えとらんというのに」
「そういやフシギダネのことも知ってたな…」

オーキド博士とサトシが不思議がる。
そういえばそうだ。
私はポケモンのことは分かる。どこかで見たことがあるのか、思いだそうとしても全く思い出せない。

「まぁ、謎は多いが、追々分かるじゃろう。とにかく、これで3つの図鑑の所有者が決まったというわけじゃな」
「3つ?」
「もう1つは、シゲルっていう、博士の孫が持ってるんだ。オレの幼なじみでもあって……ああっ!そういえばオレ、あいつと競争してたんだった!」

サトシは慌てた様子で走り出した。
扉で止まって振り返ると、

「リンも今日からオレたちとライバルだ!絶対負けないからな!じゃ、またな!!」

と言って去って行ってしまった。

「おまえさんも出発するか?必要最低限の道具を入れたリュックをやるから、頑張って行ってくるといい」

何から何まで親切なオーキド博士に深くお辞儀をして、
私はマサラタウンから旅立った。
期待と、好奇心と、ちょっとの不安を抱えて。
マサラタウン。
サトシの話によると、この町はサトシの住んでいる家があるところで、先日旅立ったばかりなのだという。

…旅立った矢先に戻してしまって申し訳ない。

マサラタウンに着くと、サトシは大きな白い建物に案内してくれた。
研究所だそうだ。

「オーキド博士ー!いるー?」

研究所の扉を開け、サトシはオーキドという博士を呼びながらずかずかと奥へ入っていく。

「こらこらこら。勝手に入ってくるなと何度言ったらわかるのじゃ…」

あきれた口調で奥から現れたのは、老人…といってもまだまだ元気そうな白衣の男の人だった。

「サトシ、どうしたんじゃ?忘れ物か?」
「いや…忘れ物じゃなくてさ…」

そう切り出し、サトシは今までの話を白衣の人に話した。

「ふむぅ…記憶喪失とな…」

白衣の人は私の顔をまじまじと見てきた。
私は少し警戒して、顔をそらす。

「リン、この人は世界的に有名なポケモン博士、オーキド博士だよ」

警戒してるのが分かったのか、サトシは私に白衣の人を紹介してくれた。

「この人が、オレにポケモンとポケモン図鑑をくれて、旅に出させてくれたんだ」

へぇ。すごい人なんだ。
私は感心するも研究家の視線に慣れず戸惑う。

「ふぅむ。この辺じゃ見ない顔じゃな。おまえさん、名前以外は何も覚えてないんじゃな?」「ぁ…はい」
「…これは、警察に任せた方が良さそうじゃのう」
「えっ!?」

私は勢いよく首を横に振った。
よくわからないけど、警察に行ったりしたら、もうそこから出られないんじゃないかという恐怖に襲われたからだ。

「なんじゃ、警察は嫌じゃと?じゃあどうするんじゃ?」

そう聞かれて、私は少し考え込んだ。

私、どうしたいんだろう?
記憶もない。
行き場もない。
でも……何でだろう。
すっごいわくわくしてる…。
これは一体…?

その時、頭の中で、聞いたことのある声が甦った。

──強くなれ

どうしたいかなんて決まってた。
あの声が言っていたのは私の願い。
私は、私は──

「私は、強くなりたい!」

サトシとオーキド博士はきょとんとした顔を見合わせていた。