(六)②特定秘密保護法 

特定秘密保護法については、賛否様々な意見をいただいております。以下、私の考えを記します。

 国民の生命や財産、国家の存亡にかかわるような、安全保障に関する重大な秘密の漏えいに対しては法定刑に死刑や無期懲役もしくは不定期刑をおいている国もあります[1] 。今回の特定秘密保護法の罰則の上限が10年というのは必ずしも過重とはいえないでしょう。10年以下の懲役は窃盗罪と同じです。しかし、成立後、法律施行までに政府が整備する指定解除の統一基準といった課題が多いため、少なからずの人が不安に駆られている事実は真摯に受け止めなければなりません[2]

 法制度の評価は制度(法律の中身)だけでなく、法執行の状況が相まってなされます。

 この法案の国会審議を通じ、野党やマスコミからの批判を耳にし、強く感じたことはこの法律を運用する一般の官庁や警察・検察つまり政府への不信感が根強いということです。

 例えば、沖縄返還交渉時の密約の存在を巡る問題です。返還交渉時、日本と米国との間で核を搭載した艦船の日本への寄港などを巡って密約が交わされたとの疑惑がありました。民主党政権下の調査報告書は、密約問題に関するそれまでの政府の説明が「嘘を含む不正直な説明に終始」することになった経緯は「民主主義の原則、国民外交の推進という観点からみて本来あってはならない態度」と記しています。もっとも、「冷戦下における核抑止戦略の実態と日本国民の反核感情との間を調整することが容易でなかったという事情を考慮」すれば、「嘘を含む不正直な説明」という苦渋の選択に一定の理解ができなくもありません[3] 。このような見解はいわゆる一票の格差訴訟の最高裁判決にも見ることができます[4]

密約問題に戻れば、あれから半世紀以上を経て、相手国である米国での情報公開や我が国外務省の元幹部の証言により「密約の存在」を否定することは難しくなっています。ただ、民主党政権下の調査報告書以降も、政府の見解が未だ煮え切らないものとなっていることは、国民の政府への不信感の一因となっているように思います。

さらに、大阪地検特捜部の捜査資料改ざん・隠蔽事件などによって法執行機関への信頼も揺らいでいます。

政府への国民の信頼を取り戻さなければなりません。秘密保護法の適正な運用に向け、政府部内や国会で様々な検討課題が残っています。同法案に賛成した国会議員の一人として、未来に重い責任を負ったと痛感しております。


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[1]  例えば合衆国法典(USC)第18編第794条(a) 当該行為が米国を害し、外国の利益になることを意図した上で、外国政府に対し、国防関係情報の提供、伝達等を行うこと

794条(b)戦時において、当該行為が敵国にとり有益となることを意図した上で、米軍の部隊移動、兵員数、観戦や航空機など装備等の情報について、収集、記録、公表、伝達を行うこと



[2]  特定秘密の指定およびその解除並びに適正評価の実施に関する第18条の「有識者会議がおこなう統一基準」、行政機関の長による特定秘密の指定およびその解除に関する基準等が真に安全保障に資するものであるかどうかを独立した公正な立場において検証するとする付則第9条の「第三者機関の設置」等



[3]  岡田克也外務大臣の委嘱により発足した、いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書(201039日)46頁。有識者委員会の構成メンバーは北岡伸一(東京大学教授、座長)、波多野澄雄(筑波大学教授、座長代理)、河野康子(法政大学教授)、坂元一哉(大阪大学教授)、佐々木卓也(立教大学教授)、春名幹男(名古屋大学教授)



[4]  元外交官の福田博元最高裁判事の追加反対意見に「冷戦たけなわの時代にあっては、司法が定数訴訟において「広範な裁量権」の論理を用いることにより立法府に寛容な態度を示し続けることに対し、我が国の地政学的位置等から、内外の安定の重要性を第一に考え、公職選挙法の根本的改正につながる事態を避けようとする考えに合致するとして黙認する風潮があったのかもしれない」とある。

http//www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js/20100319122319720493.pdf 19

 つまり、冷戦下の日本は、東アジアで数少ない民主主義国家であり、周辺の軍事独裁国家や共産・社会主義勢力からの脅威を受けていた。一票の格差を是正すれば、都市部からの選出議員が多くなり、左翼政権がうまれやすくなる。日米安保を背景に民主主義・資本主義国家の道を歩んでいた日本の軌道を変えないために、体制派のなかには格差是正をしなくてもよいのではないかとの意見があった。最高裁もこの空気を読み、格差問題でうるさく言わなかった可能性がある。参照:三宅伸吾「googleの脳みそ」(日本経済新聞出版社 2011年)