5月の満月はフラワームーンって言うらしい。
って、最近月にやたら詳しい気がするのは気のせいか。
いや、気のせいじゃない。
「じゅー」
「おい、のぼるな、環」
「じゅー」
ここは俺の部屋。
なのに環が環だけで居る今日は、5月の満月。フラワームーン。
『1時間だけでいい。環と一緒に居てやってくれ』
ピンポーンって鳴ったインターホン。
出たらそこに翔さんが居て、真面目な顔で口調で言われたら、はいって答えるしかできない。最初から一択。答えは『はい』のみ。
しかも翔さんにちょこんと抱っこされた環は、手をぐーにして口にあててめそめそしてた。
めそめそってことは涙が。
パラパラパラ。
粒になって落ちていた。
『じゅー』
手を伸ばして俺に抱きついてきた環からは、ふわんって甘いにおいがした。
こうやって、環はやってくる。満月のたびにやってくる。翔さんに連れられてやってくる。
満月になるとお前に会いたくなるらしいって翔さんは言う。
雅紀がそう言ってるって。
果たしてそこにはどんな理由が秘められているのか。
「じゅー」
来たときのめそめそ顔は一体どこへ。
環は今日も、俺によじのぼって遊んでいる。
今日は満月。5月の満月。フラワームーン。
かぐや姫から生まれた赤い姫から、花のようなにおいが、ふわり。
「満月のたびに来たって、俺はお前の王子さまにはなれないぞ」
せっせと俺によじのぼる環を、かわいいなあって思いつつも言った俺の頬に。
「じゅー」
ぶちゅ。
全力で尖っただろう小さな口が、突き刺さった。
「翔さん早く迎えに来てくれぇ………」
環を抱えてラグに撃沈。
爆笑の環。
我ながら情けない声が、部屋に響いた。
おしまいv
Photo by みやぎ フラワームーン🌕