豪華すぎるほど豪華な昼食タイムが終わって、俺は今度は双子の椅子状態になっていた。
ソファの上。
右に環、左に雅月。両手に双子。
ただ、さっきまでの元気はどこへやら。
双子は揃って俺にもたれかかってじっとしていた。
お腹いっぱいになって眠いんだろうなあ。
ふたりとも目が半分ぐらいになってる。気を抜いたら閉じそうな勢い。
そして俺もつられて眠い。
俺もお腹いっぱいの上に子ども特有なのかこの双子ならではなのかの、ちょっと甘いようないいにおいと、ほかほかの体温。ふかふかのソファ。
自然とまぶたが下がる。
「雅月、環、向こうでお昼寝しよう?」
柔らかな声は、相葉くん。
まじ寝そうだった俺は、よいしょって座り直して、相葉くんの方に手を伸ばす雅月をまず渡した。
「環も眠いだろ?ベッド行くぞ」
さすがに眠いなら親んとこに行くだろうと、環に手を伸ばした翔さんに渡そうとした。
のに。
「じゅー」
「………え?」
小さな小さな手で、ぎゅって俺の服をつかんでる、環。
いやいやなのかすりすりなのか、俺の鎖骨あたりで頭を左右に振っている。
「え?あの………た、たまきちゃん?」
空振りの手をぱたぱたさせて、情けない声と、眉毛が思いっきり下がった情けない顔の翔さん。
この翔さんを見るのは、今日これで何回めか。
「環、昼寝だって」
鼻がくすぐったい、ふわふわの髪。
それをぽんぽん撫でて、言う。
顔を覗き込んだら、もう明らかに眠そう。なのに、じゅーって服を離さない。
かわいいなあ。
何でこんなに懐いてくれてるのかは分かんないけど。
明日になったら忘れちゃうのかもしれないけど。
「いいよ、このまま抱っこしとくから」
こんな子守りオンリーな休みも、悪くない。
「いや、でも重くないか?」
「重いけどいいよ、今日ぐらい」
「………今日ずっとだし、何か悪いな」
「いいって、だから」
俺はまたよいしょって環を抱き直して、じゅーって何とも言えない顔をしてる環に、抱っこしててやるから寝ろって、ぽんぽんしてやった。
したら。
そしたら。
安心したのか何なのか、顔を上げてじゅーって全力で口を尖らせてから、超絶美人とイケメンミックスの整った顔で笑って。
ぶちゅ。
「………っ‼︎」
「たたたたた環いいいいいっ⁉︎」
環の小さな小さな口が、俺の、口に。
フリーズ。
何。
今。
俺。
「潤こらてめえええええっ‼︎うちの大事な大事な大事な娘に何しやがるんだあああああっ」
「ちょっと、しょーちゃん‼︎今のはどう見ても環からでしょ?」
「そうですよ、翔さん。潤くんは不可抗力」
「環ちゃん、やるなあ」
ぎゃーぎゃー騒いでる大人たちを、っていうか騒いでるのは翔さんだけど、うるさい外野をよそに、環は満足げにこてんって俺に身体を預けて。
………寝た。
寝たよ。寝るのかよ、そこで。
子どもって、何するか全然分からないんだな。
環を抱っこしつつ、一瞬だけぶつかるみたいにして奪われた唇に触れた。
相葉くんにフラれてからはやどれだけか。
数年。2年とか?もうちょい?
俺の最後のキスの記憶は、無理矢理相葉くんから奪ったキス。
悪役の役得キス。
その最後から最新の書き換えが、まさかの相葉くんの子ども。まさかの1歳児。
フリーズ以外、何もできなかった。
ある意味ショック。まじか。大丈夫か。何でだ。奪われたぞ、俺。唇。
「潤くん………生きてる?」
「………しんでる」
「しんでんのか」
「早く生き返ってね」
「………」
笑いながら言ってるニノと大野さん。
その向こうで。
「環からしたのに松本さんを怒っちゃダメでしょ?しょーちゃん。だいたいしょーちゃんがいつもふたりの前で僕にキスするから覚えちゃったんじゃないの?」
「………はい。ごめんなさい」
相葉くんに怒られて分かりやすく落ち込んでる翔さん。
いや、うん。確かに不可抗力だから、怒られても困るんだけど。
ごめん、翔さん。
まったく予想してなかっただけに、避けきれなかったよ。
悪くなくても、謝りたくなるよね。1歳児だから。
大人になればキスなんて。
思春期の頃みたいに特別感なんかなくてもできたりするけど。ノリでツレとだってできちゃったりするけど。
これは俺、じいさんになっても忘れられないキスだな。
すーすー寝息を立て始めた環を抱っこしながら、やれやれって、苦笑いが漏れた。