Your Eyes 30 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

A side



「行って、らっしゃい」


昨日より少しマシになった声でしょーちゃんに言う。


失声症と言っても症状は色々だって聞いた。


まったく声が出ない。
微かに出る。
掠れて出る。


女の人に多い、とも言われたっけ。


その期間もまた色々みたいで、早い人は1週間ぐらいで治るとか。


早く、治りたい。
そして仕事に復帰したい。


この声は、いつになったら戻るんだろう。


掌を見つめる。
相変わらずの、黒い手。


袖を捲ってみる。


もう、肘まで、黒い。


軽いキスを交わして、しょーちゃんは仕事に行った。


よし。
オレも行こう。


一応まだ入院中ってことになっているから、本当は家に居なくちゃいけないんだけど。


こんな時にしか、動けない。


しょーちゃん、ごめんね。


帽子を目深に被り、財布と車のキーを持って、オレは家を後にした。







どこ、だったっけ。


遠い記憶を辿りながら、車を走らせる。


この辺り。
この辺りで合っている、はず。


後ろから来る車がないことを確認して、さっきよりもスピードを落とす。


「あっ……」


あった。


ドキンと。
心臓が、跳ねた。


空いている駐車スペースに、車を停める。


しょーちゃん、行ってきます。


しょーちゃんの。


お父さんに、会いに。