物語をどうぞ。2弾です。
昨日に続き雨なので、物語の続き更新しました。
ぜひぜひお読みくださいませ。
美しいリズムに乗って2
私は大人になった。
年齢だけは間違いなく毎年増え20歳になった。
しかし私の中身は何ら変わることはなかった。
ポッカリと穴が空いた心は何がほしいのか、また何に満たされているのかもわからなかなった。
枯渇した心を埋めるかのように私は動いていた。
大学生活は実に楽しかった。
毎日毎日、お金もないのに仲間とつるんで遊んでいた。留年をしない程度の勉強しかしていない。
しかも浪人をした私の学年は妹と一つしか変わらなかった。妹は、真面目で私より良い大学へ入学し経営学を学んでいた。
私は文学部へ行きどうしたいのかわからないままただただ時間ばかりを消費する毎日を送っていた。
そんなある日、いつもつるんでいる友人からホストクラブに行こうと、誘われた。
皆最初は、お金がないから無理と乗り気ではなかったが、言い出した友人が30万円出すから行こうと言い出した。
皆で出し合ったお金は、40万になった。
私たちは、歌舞伎町に向った。
新宿駅はいつも混んでいる。あちこちから人が湧いてくる。私たちは、お目当ての店まで足早に歩いた。
キャッチの人も、街にいる人も皆怖かった。
店に着いた時には生きた心地はしなかった。
私たちは、ビルの4階までエレベーターで上がった。
エレベーターは古くギィっとオトがした。
4階に降りた私たちの目に飛び込んで来たものは、きらびやかな店の入口だった。受付で手続きを済ませた私たちは卓に案内された。店のシステムを説明され、ホストが来た。皆それぞれきれいな顔をしていて、話も面白く私たちは、90分楽しんで帰った。
しかし時が経つと私はすっかりホストクラブの事など忘れてしまった。
私は大学を卒業して、中小企業の事務員として働いた。仕事は単純作業が多くやりがいはあまり感じない。給与も安いが私にはゆるく働ける環境はとても居心地が良かった。
妹は今年有名企業で経理の仕事にありついた。
仕事は忙しく休みも取りにくいが、お給与や待遇で返してくれる企業に満足しているようだ。
私たちはそれぞれの道をしっかりと歩みだしていた。
子どもの頃の記憶はだいぶ風化したまに痛む古傷さえ
懐かしいものとなっていた。
私と妹は長期の休みが取れる度に実家である祖父母の家に帰った。祖父母はいつも優しく私たちを迎えてくれた。
「ねえ、お姉ちゃん。今お父さんどうしているか知っている。」
世間話をしていた時妹は私にそう聞いた。
「わからない。
だってあの人の連絡先なんて知らないもの。
お母さんが死ぬ前からあの人の連絡先はなかったのよ。帰りたい時に帰り、帰らない時はずっと家にいない。連絡すらよこさないじゃない。」
私は、妹に言ってもしょうがないとわかりながらも
口が止まらなかった。
「お姉ちゃんはまだあの人のこと許せないの。」
「あなたは許せるの。」
妹は冷たい笑みを私に向けた。
妹が少し怖かった。
「許せないわよ。私も。だけど、あの人今一人なの。金はすっからかんみたい。」
私は絶句した。
女癖は悪いが、真面目に仕事をしていたし、お金は稼いでいた。何処をどう間違えたのだ。
妹はゆっくりと説明してくれた。
父は経理事務員との恋愛が終わったあとも、様々な女と付き合っていたらしい。
キャバ嬢、スーパーの店員、居酒屋のバイトなどジャンル問わず自分を気に入ってくれた人と付き合ったらしい。 そんな父の来るものは拒まずという態度が悪かったのだ。
その女と父はバーで知りあった。
父はその日バーで呑んでいた。
仕事のストレスを解消するためだ。
父は、或る女が気になった。
その女は、カウンターの端に座り本を読みながらウィスキーを呑んでいた。
ゆるいパーマのかかったロングヘアをしていて、
唇は厚く、その唇には真っ赤なルージュをつけていた。
スタイルもよく自分に何が似合っているかを把握している。父は女に一目惚れした。
父は、女に近づいた。
女は父を受け入れた。二人は氷が溶けるように、
溶けていった。
バーで盛り上がった二人はそのままホテルへ行った。女は、とにかく父のタイプの人間で、氷見以上に父のハートは奪われていった。
付き合い始めた父と女はやがて結婚を意識するようになった。しかし意識していたのは、父だけで、女にとって結婚は最も仕事がしやすくなる手段でしかなかった。
父が結婚を切り出すと女は了承した。
そしてさり気なく将来をかたり、父を言葉巧みに騙していった。もちろん騙されている父は気づかない。
女は不動産投資詐欺師だった。
騙された父はありもしない土地を買った。
しかもその土地の近くに引っ越しまでして。
買った土地は開発されると信じていた。
でも全ては幻だった。
金も女も地位も何もかも父は失った。
「お姉ちゃん、お父さんね。私たちに会いたがっているんだって。
私ね笑いが止まんないのよ。馬鹿らしくてね。
あと、もう一つ良い事を教えてあげるわ。
氷見、死んだわよ。」
妹の冷たい笑みは更に深くなった。
氷実《ひみ》は父との別れに中々応じなかった。
父は氷見が段々と面倒になり、家ごと氷見を売りに出してしまう。そして自分は逃げた。
そんな事も知らない氷実は無一文になりやがて夜の街を彷徨うようになった。
そして氷見は、男を渡り歩く生活をしていた。
ある日クラブに遊びにいった氷実は、人の邪魔も考えず踊っていた。大声を出したり、周りから引かれるくらい暴れていた。
そんな氷実を連れの男性は捨てて帰ってしまう。
しかし氷見は気づかない。馬鹿みたいに踊り狂っていた。踊り続けて疲れたのか、酒を呑んだ。
その酒は、赤い色をしていて、ハートのラムネが溶けていくカクテルだった。
氷実は一口にお酒を呑んだ。
そしてそのままクラブを出た。
クラブを出てすぐ大量の泡を口から吐き出し、崩れ落ちた。
彼女の死体には鳥の糞が落ちてきた。
「なんとも愉快でしょう。糞が落ちてくるなんて、
あの女どんだけついているのよ。」
妹は説明し終わると、テレビを見ながら何もなかったように雑談を始めた。
私も何も無いふりをしながら今を楽しんだ。
しかし私の直感は、警鐘を鳴らしていた。
たぶん父と氷見を不幸に向かわせたのは、妹だ。
妹は頭が良いのだ。昔から。
したたかに、生きていた。
でも私は妹を責めることはしない。
悪いのは、父と氷見なのだから。