春に吹く風が、少し肌寒く頬を撫でる。

さくらが舞って、そらを見上げると陽光。

暖かな日差しと、ほのかに涼をまとった風に挟まれて

――思い出す

君と一緒に過ごしたことの無い季節なのに

何故だか手をつないで歩いたことを思いだす。

もう白い息は出ないし

もうマフラーをあげることもない。

君の真っ赤なコートが焼き付いていて

目蓋の裏は早くも紅葉で埋まっているよう

目を瞑っていた僕を風がさらう。

さくらと一緒に紅葉が巻き上げられて

目の前にあるのは暖かな光ばかり

それは希望を謳う絶望のようで 手を伸ばせなかった。

そんな光に背を向けて

僕は後戻りをするように駆け出した。

あの冬に戻りたくて 希望から逃げる。

絶望でもいい

また傷付いてもいい

それでも 僕は振り返る。

そして、真っ赤な目蓋に惑わされる。

風が吹いたがあの時のような冷たさはない。

彼女といたあの日には春はいなかった。

だから、僕は春から逃げ出して

冬に向かって走り出す。

このまま溶けてしまう寒さには焦がれないから