私の人生は、そんなに波風立ってないように見える。
平均より少しだけ裕福な家庭で、何不自由なかった。
しかし、怒られた記憶、殴られた記憶、いじめられた記憶が大半で、学生として学校に適応するのはとてもじゃないが難しかった。
不登校になってもおかしくなかったけれど、きっと心の中で母の「学生は勉強が仕事」という言葉が残っていたのだろう、学校を辞めるなんて選択肢は頭になかった。
今考えたら、そんな辛い想いするなら辞めてもよかったんじゃない❓なんて思うけど、学歴というものは社会にとってとても重要らしく、学歴のおかげで私はなんとか仕事先を探せたりする。
私はどこか人と違う、そう思いながら生きてきた。
私はどこかおかしくて、周りはまともで、いいなぁ、なんて思ってた。普通に生きていける皆が羨ましくて。
もちろん、普通に生きられない人は世の中にたくさんいる。でも、そーいう人は大抵、なんらかの煌びやかな才能を持っていて、その才能で生きてる。
私はそういった煌びやかな才能は持ち合わせてない。
よって、人生game over、な訳である。
そんな私は、社会に適応できない自分が大嫌いで、おかしな自分が大嫌いで、わかってくれないみんなが大嫌いだった。
大学3回生の時に、風俗の仕事を始めた。
もちろん、元々性欲が強かったっていうのもあるけど(大いにある)、あまりにも男性経験がなさすぎて、危機感を覚えていたからっていうのが一番強かった。
オナニークラブ、通称オナクラ。
男性のオナニーを手伝うだけの仕事。
処女で何もしらない私は、まんまとその世界に飛び込み、まんまと騙され、まんまと嘘で塗り固められた世界を知るわけである。
実際にオナクラの面接に行ったのだが、説明を聞いていると気がついたらホテヘル、通称ホテルヘルスになっていた。
ヘルスというのは、オナクラとは違い、脱いで、セックスの手前までやると、気のいいスタッフさんから聞いた。
(あとから知ったのだが、オナクラと謳い実際にはホテヘル・デリヘルを案内するのは、この風俗業界ではよくあることらしい。)
処女だということを伝えたら、スタッフさんは酷く狼狽えていたが、結果即日入店することになった。
予約は何件か入り、お客さん入ったよと仕事用の貸し出し携帯で連絡がきた。
今から挿入はせずとも、知らない大人の男の人とセックスの手前までするんだ、私は。
身体の震えが止まらなかった。
多分緊張で震えていたわけではなかったと思う。
怖気付いていたのだ。
セックスのやり方はおろか、キスのやり方すらも知らないのに。
自分の初めてを全く知らない大人の男の人に捧げてしまうんだ、私は。
その時、スタッフさんに、「大丈夫?」と聞かれた。
身体が震えていることがバレたくなくて(バレてるけど)、認めたくなくて、引き攣った笑顔で「大丈夫です」と答えた。
初めては、優しい人だった。
処女だから、お客さんじゃなくて、関係者をつけてくれたんだろう。(真相は定かではない)
指入れだけで出血し、狼狽えさせてしまった。
仕事が終わり、給料を受け取る時、思ってた以上の大金で、これを受け取っていいの…!?ととてもびっくりしたことは、今でも強く覚えている。
3、4人に身体を捧げて、三万円。
人それぞれだろうが、私は、大金だと思った。
身体を捧げるだけで、こんなに稼げるんだ。
違う。
3、4人に自分の大事な身体を捧げても、三万円。が正しいのだ。本当は。
自分のことを大事にすることができなかった私は、自分のことが誰よりも大嫌いな私は、身体を売りつづけることを決めた。
その後も仕事を続けた。
札の枚数がどんどん増えていく。
増えていくごとに、私はなんだか自分が認められてる気がして、増えていく札束が自分の価値を表していると思っていた。
気がついたら100万貯まっていたこともあった。
風俗の仕事で、人格否定をされるなど辛いことがあっても、札束が慰めてくれている感覚になった。
しかし、やはりいいことばかりな訳がない。性病にもたくさんなった。性病によって涙が出るほど痛い思いもした。一番ショックだったのが、好きな人ができた時に捧げようと思っていた処女を、気持ち悪いおっさんに奪われたこと。気がついたら勝手に挿れられていた。ショックと圧迫感で息ができなかった。揺さぶられて、息をするタイミングがわからなくて、ショックで、過呼吸になった。
でも、辞めたいとは一切思わなかった。辞めることはできなかった。
全ては貯まっていく札束のため。
札束をみて自分には価値があるって、安心するため。
欲しいものをたくさん買って、買って、買った。
買う手は止まらなかった。
買うという行為に快感を覚えた。
それでも増えてく札束。
嬉しかった。
母に気づかれて、もっと自分を大事にしなさい、と泣かれても、私は心のどこかで、風俗が居場所なんだ、と思っていた。
母を泣かせてしまったこと、裏切ったこと、深く傷つけたこと。
自分の愚かさを感じた。
今までの辛かったことが、いろんなことが一気に押し寄せてきたのだろう、私は身体が動かなくなってしまった。
ベットから起き上がれなくなってしまった。
鬱病を発症した。
息を吸って、吐いて、そんな動作ですら辛かった、やり方がわからなくなった。
思考は常に⚪︎にたい。でいっぱいだった。
毎月の支払いはそこそこあったので、貯まっていたお金はどんどんなくなっていった。
お金がなくなる恐怖で、服薬をして少し元気になってから、いくら風俗がバレても、何度も繰り返した。
買うという快感を覚えてから、まずはリボ払い、そこから消費者金融に手を出した。(幸い闇金には手を出さなかった。)
どうせ後から稼げるから。
そう思っていた。
しかし、稼げそうになった時にまたバレて辞めさせられた。支払いがあると伝えても無駄だった。
そこからはイタチごっこだった。
こっそり風俗をしてはバレて辞めさせられ、の繰り返しだった。
しかし、収入が減っても物を買う手は止められず、借金は増えていった。
実際、150万ほどある。
借金についてアレコレ母に言われるのは辛くて、自分のせいなのはわかってるけど、借金のことを言われると、なんだか今までの自分を責められている気がした。
結果、家から逃げ出した。
そして今、2.5万のアパートを借りて、1人で暮らしている。正直お金はないし、むしろ借金を返さないといけないから、辛いが、実家にいた時よりも気が楽だ。
そして今現在、マッチングアプリで知り合った彼氏がいて、私は風俗は辞め、キャバクラで働いている。
キャバクラもどうなんだ、とは思うが、日払いではなく普通の会社と同じ月払いなので、社会復帰の一歩を少しだけ踏み出せた気がした。
周りからしたら、夜の仕事には変わりなく、一歩も進んでいないように見えるが、私にすれば、大きな一歩でしかなかった。
そして今、昼の仕事もしようとしている。
少しずつ、少しずつ、私は進んでいく。
そして、いつか自分のことを愛せる時がくることを祈って。