2020/10/22TOHOシネマズ錦糸町楽天地にて
監督:黒沢清
出演:蒼井優、高橋一生、東出昌大
時代は日米開戦前夜の1940年、舞台は神戸です。
繊維商社の若き経営者、福原優作が高橋一生。
暮らしぶりは豊かで、なかなかの豪邸に住んでいます。
その妻、聡子が蒼井優。
ごく平凡な女性で、豊かな生活を満喫しています。
優作は趣味人でもあり、フランス製パテー9.5ミリカメラを使って映画を作ったりしています。
妻を主役にした自主製作映画を忘年会で社員に見せるのはどうかと思いますが、まあモダンな人ですな(笑)。
そんな豊かで幸せな生活の中に、ひたひたと戦争が入り込んでくる序盤はスリリング。
神戸に転任してくる聡子の幼馴染みで憲兵隊の津森は、そんな不安の象徴です。
津森を演じるのは東出昌大。
なにを考えているのかわからない不気味な人物を怪演しており、良いです。
次第に暗雲がたちこめる中、優作はあくまでもノンシャラン。
「一度大陸を見ておきたい」と呑気な事を言い出し、満州に渡ります。
仕事といいつつ、しっかり部下に撮影機材を持たせたりして、マニアはいつの時代も変わりません。
そんな優作ですが、満州から帰って来るとどうも様子がおかしい。
そして聡子の身の回りにも、次々と不審な事が起き始めます。
ここからのサスペンスがなかなか不穏で面白いのですが、このサスペンスは最後まで醸成しません。
ここがまず最大の不満。
監督の興味が別の所にあるのは、最後まで見れば明白なのですが、サスペンスとしての骨法を途中で放棄せずとも監督の意図は貫けたのではないでしょうか。
また、「戦中の女性のひとつの生き方を描く」という監督の意図からすれば、津森の聡子に対する屈折した想いは、もっとねっとりと細かく描く必要があったのではないでしょうか。
津森は国家=暴力を象徴する人物であると同時に、福原夫妻と不可思議な三角関係となる、物語の構造上非常に重要な存在です。
その辺り、津森の描かれ方はあまりにも型通りで、物足りません。
ここが脚本の難点だと思います。
更に、空気感のないペカペカした画面はテレビドラマと大差なく、これを映画と言ってしまうのは私には抵抗があります。
実際本作は元々NHKの8K番組として製作されたテレビドラマなのですが、もうちょっと何とかならなかったのでしょうか。
映像的フェティズムのなさは、これまでの黒沢清作品を知るものとしてはがっかりしました。
それから、演出も極めて舞台的で、役者の演技に引っ張られすぎ。
映画的躍動感に欠けます。
面白くなりそうな材料がすべて揃っているのに面白くならない。
中途半端で、振り切ってない感じ。
今の時代に絶対な事を語ろうとしているのはわかる。
わかるだけにどうにも歯痒いです。