映画/『あゝ決戦航空隊』 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道


1974年9月15日公開
東映
監督:山下耕作
出演:鶴田浩二、小林旭、池部良、菅原文太、梅宮辰雄、北大路欣也、渡瀬恒彦、安藤昇、西条秀樹、檀ふみ、中村玉緒

太平洋戦争末期に実施された、航空機による体当たり攻撃「特攻」
その提唱者といわれ、多くの若者を特攻隊員として戦場に送り出した大西瀧治郎中将の物語。
原作は草柳大蔵「特攻の思想」、脚本は野上龍雄、笠原和夫。

ちゃんとした批評を書こうとして、だいぶ悪あがきをしたのですが、うまくまとまらなかったので以下、スケッチ風に書きます。

・作品としては冗長で、平板。

・特攻とは「作戦」ではなく「思想」であるという脚本。観念的すぎる。

・山下耕作監督は情感を表現するのが得意で、時代劇や任侠物に傑作が多いが、こういう観念的な脚本は不向き。役者のメンツもあいまって、軍隊の上下関係がまるでヤクザの親分子分、兄弟分のように描かれる違和感。笠原和夫は監督に大島渚を推したという。

・その笠原脚本に書かれた「思想」自体も分裂していて不可解。
これは終戦を少年兵として迎えた笠原自身の屈折した戦争観に由来する。

まず、降伏に反対する大西は米内海相に「(特攻で)死んでいった若い奴らに天国で合わす顔がない」と言って、徹底抗戦、更なる特攻攻撃の続行を迫る。
「それではきりがない。日本の若者が、日本人がすべて死んでしまってもいいのか」と叱責する米内。
しかし大西は「たとえそうなっても、日本人の魂は残る」と食い下がる。


なんという理不尽、非合理!
しかし、私はこの思想を100%否定できない。
嫌悪し、拒否しつつ、私の心のどこかに、ほんのわずかながら肯定せざるを得ない気持ちがあるのだ。
映画「日本沈没」での島田正吾の「何もせん方が、ええ」というセリフにどこか共感を覚えるように。

しかしその一方で笠原は、302海軍航空隊厚木基地司令・小園安名に焦点を当てる。
玉音放送を聴いてもなお武装解除に応じず抵抗。マラリアの発作で倒れ、病院に拘束される。小園は天皇の戦争責任を問う。
「陛下、どうして若い者と一緒に逝ってくれないのか!」
小園が私淑する大西は、特攻の責任をとって壮絶な割腹自殺を遂げる。
しかし天皇は責任をとらず、アメリカによって生かされた。
ここに笠原の怨念があり、それは反戦などという単純な思想では括れない。
笠原の思いは後年『大日本帝国』ではっきりと打ち出されるが、この作品ではまだどこか振っ切れていない。

・児玉誉士夫がかっこよすぎる。
児玉は製作当時、生前の大西を良く知る数少ない人物であった。そのため脚本に協力し、何と映画の題字まで書いている。
児玉の役は小林旭が颯爽と演じているが、Wikipediaを読んでいただければ児玉誉士夫がどういう人間かがよくわかる。ついでに自由民主党がどういう政党かもよくわかるのでぜひ。



・アナクロすぎる企画を危惧したのか、当時人気絶頂だった西城秀樹がワンシーンだけ登場したりするが、


映画はベタゴケ。1974年にこういう映画を作ってしまう東映もどうかしているとは思うが、1980年には『二百三高地』を作り、さだまさしが歌う主題歌ともども、大ヒットとなった。
足りなかったのは主題歌だったということか。