読書/ケン・リュウ編「折りたたみ北京」 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道
ハヤカワ文庫

ヒューゴー賞、ネヴゥラ賞を受賞した気鋭の中国人作家ケン・リュウが編者を務めた現代中国SFのアンソロジー。

収録作品は
「鼠年」「麗江の魚」「沙嘴の花」スタンリー・チェン/「百鬼夜行街」「童童の夏」「龍馬夜行」シア・ジア/「沈黙都市」馬伯庸(マー・ポーヨン)/ 「見えない惑星」「折りたたみ北京」ハオ・ジンファン/「コールガール」糖匪(タン・フェイ)/「蛍火の墓」チョン・ジンポー/「円」「神様の介護係」劉慈欣(リウ・ツーシン)

劉慈欣の長編「三体」が翻訳作品として初めてヒューゴー賞、ネヴゥラ賞、おまけに星雲賞まで受賞し、今注目の中国SF。
私はこれまで読んだことがないので、こういうアンソロジーはありがたい。

私が気に入った作家はシア・ジアで、女性ならではと言うと昨今は叱られるかもしれないが、柔らかな文体と優しい視線が良い。
「百鬼夜行街」は、妖怪たちの街に一人だけ住む人間の子供の物語。これはSFじゃないのでは?と思って読んでいると実は、という。
「龍馬夜行」は人類滅亡後の地上を闊歩する、巨大なロボットの龍の物語。詩的な文体の中に寂寥感が漂う。これはアニメにしたいなあ。

表題作「折りたたみ北京」は、ディストピア小説。
住民が階級によって表と裏に物理的に分けられて暮らす北京。
1日数時間、都市がぐるりとひっくり返る仕組み。
三層に暮らす主人公が、娘の幼稚園の費用を稼ぐため、一層に忍び込む。
奇想のSFだが、要するに第三新東京市ですね。

「蛍火の墓」は、滅びゆく人類を幻想的な筆致で描く、壮大な詩的作品。
なんせ無数の牛車が軌道エレベーターを登っていくのだ!
作者であるチョン・ジンポーは女性だが、この人は中国のブラッドベリですね。

話題の「三体」より抜粋改作した劉慈欣の「円」
円周率の中に不老不死の秘密があると聞かされた始皇帝は、五年以内に十万桁まで円周率を求めよ、と学者に命じる。
そのために学者が生み出したのは、始皇帝三百万の軍隊を用いた人間計算機だった!
とてつもない話ですが、作者は豊富な歴史的知識を駆使しており、壮大なホラ話をリアリティ豊かに構築しています。

所変われば品変わる。
どれも面白く読めたし、現代中国社会に対する作家たちの、問題意識も明瞭です。