読書/伊藤典夫、浅倉久志編「スペースマン」 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道
新潮文庫

1985年に出たSFアンソロジィ。
出版業界が好況だった頃は新潮社からもこんな本が出ていたのですね。
ちなみにこれは私が発売当時新刊で買って以来積み本になっていたもので、最近実家の妹から送られてきたもの。

中身は
「イカロス・モンゴルフィエ・ライト」レイ・ブラッドベリ/「月を盗んだ男」チャールズ・シェフィールド/「だれだ」「犬の星」アーサー・C・クラーク/「わが名はジョー」ポール・アンダースン/「いこいのみぎわ」レスター・デル・レイ/「プロ」エドモンド・ハミルトン/「かくて光あり」ジェイムス・P・ホーガン/「無辺への切符」デーモン・ナイト/「空間の大空に帆をかける船」バリントン・J・ベイリー/「バースデイ」フレッド・セイバーヘイゲン/「鉛の兵隊」ジョン・D・ヴィンジ

全12篇で、中篇中心の編集。
SFファンならずとも知っている有名作家の作品もあれば、知る人ぞ知る作家もあり。
読書好きだけどSFはあんまり、という人(実はかなり多い)に向けて作られた本で、内容的にもそんな傾向です。

私は、木星の厳しい自然に適合した肉体を持つ人工生命体ジョーと、彼の脳に衛星軌道上からアクセスして操る障碍者の男の関係性を描いた「我が名はジョー」にまず感動。
これ、要するに映画「アバター」を先取りしたアイデアなのですね。

それから宇宙開拓終焉の時代に直面した、老宇宙船乗りと巨大老朽艦の運命をノスタルジックな雰囲気で描いた「いこいのみぎわ」
西部劇に移し替えても成り立ちそうな話なのですが、ラストに老朽艦のテクノロジーが活かされるのがミソ。

「プロ」は、大ベテランエドモンド・ハミルトンの晩年作。
人類初の宇宙飛行に挑む自分の息子に、誇りと羨望を抱くSF作家という私小説的作品で、なかなか感慨深い。

傑作揃いのアンソロジィの中で私が最も感動したのは「鉛の兵隊」
亜光速宇宙飛行が普通となった時代。
25年の航海で3つしか歳をとらない新米女性宇宙士と、大昔に火星の戦場で負傷してサイボーグとなったバーテンダーとの100年余に渡る切ない恋愛物語。
悲劇に見えたラストが実は…というのが素晴らしいです。
作者が女性というのが納得の一本。

どれも味わいがあり、アイデアがあり、大いに刺激を受けました。
今にして思えばこれは35年後に小説を書き始める私自身へのタイムカプセルのような積み読書だったのかもしれません。