映画/『山口組外伝 九州侵攻作戦』 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道

1974年4月27日公開
東映
監督:山下耕作
出演:菅原文太、渡瀬恒彦、梅宮辰夫

暴力団山口組の九州進出のきっかけ「別府事件」
その先兵となった伝説の鉄砲玉、通称「夜桜銀次」の半生を描いた実録ヤクザ映画。
脚本は高田宏治。

まずもって夜桜銀次という人物がわからない。
九州出身であることにこだわり、よそ者に反発しながらもなぜ山口組の先兵を務めるのか。
同じ九州出身で山口組傘下の兄弟分への義理立てとしても動機が不明確である。
時代が変わり、暴力でしか自己を表現できない男が死に場所を求めていたのだと解釈するのが普通かもしれないが、残念ながら映画はそういう風にできていない。
一般的には無名で、故人であるこの人物がフィクションとしてら一番膨らませやすかったはずなのだが。

これは銀次の周辺人物も同様で、兄弟分である梅宮辰夫など銀次との同郷の絆がいかにも山下耕作監督らしく描かれるのだが、やはり人物の彫りが甘いので今ひとつ情感に乏しい。

高田宏治の脚本も、事実を羅列しただけで平板。
これなら「週刊大衆」の記事でも読んだ方がマシというものである。

こうなってしまった理由ははっきりしていて、山口組という実在の暴力団の事件を描くにあたり、東映は山口組三代目組長田岡一雄の長男田岡満をプロデューサーとして迎え入れた。
こうすることにより、山口組という実在の暴力組織とそこに所属する実在の人物を描くことは可能となったが、物語には当然山口組の「検閲」が入る。
本当のことを描けないのは当然で、特に存命の人物の描写には気を使わざるを得ない。

そんな中で唯一のびのびと生気を放つのが、架空の人物である古田憲一を演じる渡瀬恒彦。
パチンコ屋で軍手に磁石(それもでっかいU字磁石!)を入れてのがバレて、用心棒のヤクザたちに一人で立ち向かう古田を見た銀次は、古田が九州出身ということもあり、弟分として何かと面倒を見る。

銀次の内縁の妻、ふさ子(渚まゆみ)を「姉さん」と呼び慕う少年っぽさは彼ならでは。
銀次とふさ子の行為を覗いてつい自分の股間に手が…というのはルーティンながら可笑しい。

しかし、その彼が銀次の衣鉢を継ぐようなラストは不可解だ。

「実録モノ」の陥穽にはまってしまった映画の好例。
私は近年の『アメリカン・スナイパー』などを思い出し、事実の映画化の難しさを感じた。