2016/1/26TOHOシネマズシャンテにて
2015年
アメリカ/カナダ
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミア・ワシコウスカ
20世紀初頭、アメリカからイングランドの貴族に嫁いだ女性が屋敷で出会う恐怖の数々。
脚本はマシュー・ロビンスとギレルモ・デル・トロ。
冒頭で描かれる活力溢れる若きアメリカ、エイジ・オブ・イノセンス。
小説家を目指し、メアリー・シェリーに憧れる主人公イーディス(ミア・ワシコウスカ)は快活で機知に富み、魅力的だ。
その父カーターは製鉄工から鉄鋼王にまでのぼりつめた叩き上げの人物だが、野卑なところのない大人物で、娘を理解し可愛がっている。
この二人の前に、イングランドの没落貴族シャープ姉弟が現れる。
弟のトーマスはカーターに自らの事業への出資を求めるが、姉弟に説明し難い嫌悪を感じたカーターはこれを拒否。
直後にカーターは何者かに殺害される。
失意のイーディスはトーマスに求められるまま結婚し、イングランドへ渡る…。
本作の魅力はまず時代の巧みな描出である。
時は科学の時代に入りつつあり、アメリカはこれを象徴する新しい存在だ。
その一方でイングランドは古く閉ざされた世界として描かれる。
また、登場人物のメアリー・シェリーやコナン・ドイル、心霊写真(当時は「幽霊」の存在を証明する最先端の「科学的」証拠であった。)への言及など、科学と迷信の混在するこの時代への目配りが作品の確かなバックボーンとなっている。
次に特筆すべきは、姉弟の住むイングランドの古い屋敷であろう。
かつての豪奢さを留めつつ朽ちていくこの屋敷こそは作品の最も重要な登場人物と言っていい。
そういった意味で、この屋敷は「アッシャー家の崩壊」や「レベッカ」を敷衍する存在だ。
これをデル・トロ監督は精緻の限りを尽くして描いており、その美術設計の壮麗さ、重厚さ、不気味さは筆舌尽くしがたい。
穴のあいた吹き抜けの天井からのべつ室内に枯れ葉や雪が舞う光景が異様な舞台効果を生んでいる。
そしてこの時代のリアルな光源にこだわった細かいライティングと、赤を基調にした画(撮影はダン・ローステン)も素晴らしく、そこには紛れもなく見事なデル・トロ印が刻印されている。
終盤、物語が理に落ちすぎる不満はあるが、その独特な映像美だけで本作は一見に値する。
トーマスの姉、ルシールを演じたジェシカ・チャスティンの怪演も見どころ。