演劇/「マシーン日記」(2013) | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道

3/28東京芸術劇場にて
作・演出:松尾スズキ
出演:オクイユージ、少路勇介、峯村リエ、鈴木杏

町工場を経営する兄弟と二人の女の暴力と性の物語。

松尾戯曲の最高かつ最凶傑作12年ぶりの再演ビックリマーク
というわけで、期待に胸膨らませて芸劇に駆けつけましたビックリマーク

嵐の晩、ミチオ(少路勇介)は女工サチコ(鈴木杏)をレイプし、兄アキトシ(オクイユージ)は「責任をとって」なぜかサチコと結婚します。
ミチオはアキトシに「罰として」プレハブ小屋に鎖で繋がれ、監禁されています。
アキトシは狂気を帯びており、ミチオとサチコは怯えています。
そこへ、サチコの高校時代の担任教師だったケイコ(峯村リエ)が工場の新しいパートとしてやってくるのですが…。

物語はミチオが監禁されているプレハブ小屋を中心に展開されます。
マンガ本が乱雑に積み重なり、食べかけのコーンフレークが散らばるこの荒廃した部屋は日本人の心象風景でしょうか。
本作の初演は1996年ですが、17年後もその風景が変わらず心に刺さるという事実はもはや恐ろしさを超えて笑うしかありません。

求めても得られない「家族の絆」に執着するアキトシは次第に狂気を加速させ、「欽ちゃんの仮装大賞」に出場し、ジャングル風呂のライオンを演じることを夢見ています。
一方、弟ミチオは監禁されているプレハブで、兄がご近所から頼まれる家電の修理をするついでに盗聴器を仕掛けています。
ケイコはミチオの疑う余地のないクズっぷりが気に入り、ミチオの「マシーン」になることを決意、真夏のエアコンもないプレハブ小屋で毎日ミチオと交わって妊娠します。
苛められていた高校時代、「オズの魔法使い」のドロシーを演じることを密かに夢見ていたサチコは、ライオン(アキトシ)、カカシ(斧で鎖を切ろうとしたサチコに、間違えて片足をちょん切られたミチオ)、ブリキ人形(「マシーン」になったケイコ)が揃うなか、ブリキ人形に首を折られ、かかとを三回鳴らして死にます。
そして流れる「虹の彼方に」音符

目の前で露骨に行われる性行為。
突如噴出する暴力。
そして全編に仕掛けられたまっ黒な笑いが世間を覆い隠す「良識」という名の欺瞞を吹き飛ばし、あさましく、愚かで、醜い裸の人間の姿が現れます。
しかしそこには不思議な、清々しい開放感があります。

たとえ世の中のすべてが信じられなくなっても、松尾スズキの紡ぐ悪夢だけは信じられる。
そんな気がしました。