演劇/「たいこどんどん」 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道
5/25Bunkamuraシアターコクーンにて
作:井上ひさし
演出:蜷川幸雄
出演:中村橋之助、古田新太、鈴木京香

時は幕末、江戸で指折りの薬種問屋鰯屋の若旦那清之助(中村橋之助)と幇間の桃八(古田新太)は、品川宿へ繰り込むが、薩摩藩の侍ともめ事になり、海に飛び込んで難を逃れる。
小舟に乗って品川沖を漂っていた二人だが、嵐に遭い、溺れかかった所を運良く東廻りの千石船に救われ、降り立ったのが陸中釜石。ここを振り出しに、江戸を目指して東北、北陸をさまよう二人の九年に渡る長い道中が始まる…。

橋之助の若旦那に古田新太の幇間、という組み合わせが絶妙。
実質的には二人芝居、190分の長丁場に長台詞だが、息の合った二人の掛け合いで物語は心地良いテンポで進む。
2幕22場という場面転換の多さも、素早い転換と巧みな演出で流れが切れない。

鈴木京香は何度も役を替えて登場するが、品川の女郎の匂い立つような色香と所作を見せたかと思えば、釜石の船宿のおかみ、山賊の女房等全く違う役を演じて見事。
宮城の出身だから東北弁はさすがにうまいビックリマーク
そして毎度橋之助が鈴木京香に惚れてひどい目に合うのが可笑しい。

若旦那が鈴木京香に騙されて、泣く泣く桃八を釜石鉱山に売ってしまうくだりでは、人間の弱さを浮き彫りにした橋之助が切ない。

売られた桃八が鉱山での3年間を語る長い一人芝居がまた素晴らしい。
1年目、2年目…と芝居をしながらメイクを替え、衣装を脱いでいく(だんだんボロボロになるにひひ)演出が面白い。
悲惨な話を滑稽に語るのが良く、桃八を取り巻くように配置された鏡の背景もいい。

ふんだんに盛り込まれた歌はほとんどがここに書けないような猥歌、戯れ歌ばかりが東北の言葉で歌われる。
「日本人のへそ」でも感じたが、東北弁というのはなかなか色っぽいものですなにひひ

ようやく江戸にたどり着いた二人だったが、既に江戸は東京に。
落胆する若旦那を「江戸が東京になったって江戸者は江戸者でしょうがビックリマーク世界が変わっても人間は変わりゃしねえ、鼻から息吸って、口から飯食って、尻からうんこ垂れるのが人間じゃないですかビックリマーク」と叱咤する桃八の台詞は今の日本に向けられている。
ラストの大津波、最初と最後に流れる祈りと鎮魂の「アメージンググレイス」、鏡の舞台背景に常に映り込んでいる我々観客、何よりも東北を愛した井上ひさし、はっきりと力強く伝わる蜷川幸雄の演出に心を打たれました!!