映画/「沓掛時次郎」 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道

1961年6月14日公開
大映
監督:池広一夫
出演:市川雷蔵、新珠三千代、島田竜三、杉村春子、志村喬

渡世人沓掛時次郎(市川雷蔵)は、一宿一飯の義理から、六ッ田の三蔵(島田竜三)を斬るが、かすり傷を負わせただけで「これで一宿一飯の恩義は果たした」と去る。
しかし、三蔵の妻おきぬ(新珠三千代)への横恋慕から、三蔵を亡きものにしようと考えていた溜田の助五郎(須賀不二男)は待ち伏せして三蔵をなぶり殺しにし、おきぬを捕らえようとする。
助五郎の魂胆を知った時次郎は、おきぬと息子太郎吉を助け、故郷まで送り届けようと決意するが…。

この作品でまず素晴らしいのは宮川一夫の撮影です。
朝焼けをバックに橋を渡る時次郎の姿を捉えたタイトルバックや、六ッ田の三蔵の家の前に立つ時次郎のシルエットを捉えたまるでモノクロのようなカット、ナイトシーンの多い本作では抑えた渋い色調が目立ちます。
その一方で、日本の里山風景を鮮やかに切り取っており、それを背景に股旅姿の雷蔵が歩く姿は見事に絵になっています。

しかし、この作品は脚本が良くない。
あまりにも型通りで人物の彫りが甘く平板。
やくざ渡世の無残と醜さを描いた後の加藤泰監督、中村錦之助主演「沓掛時次郎 遊侠一匹」の鈴木尚之の脚本には遠く及びません。

池広監督の演出は例によってキレがあり、聖天の権威(稲葉義男)一家の喧嘩支度のシーンの構図とたたみかけるようなカッティングなど惚れ惚れするのですが、どうも全体にカチャカチャと話を急ぎすぎているように感じました。

役者ではおきぬを演じた新珠三千代の芯の強さと儚げな美しさが印象に残ります。

また、温厚な親分八丁徳を志村喬、安宿のおかみおろくを杉村春子と脇が豪華で上手いのですが、型通りの脚本で、決して十分活かされているとはいえないのが残念です。

物語は「OK牧場の決闘」のフランキー・レインよろしく、橋幸夫の歌う主題歌「沓掛時次郎」(名曲ビックリマーク)によって進んでいきます。
こうした歌謡映画的趣向や古風な作りをどう感じるかですが、私は嫌いではありません。

時次郎を呼ぶ太郎吉の声に後ろ髪ひかれつつも涙を拭きながら街道を急ぐ時次郎。
そこへ高鳴る橋幸夫の主題歌。
美しい里山風景。
股旅ものの良さはこういう情感にあると思います。

宮川一夫の撮影、橋幸夫の主題歌、共に忘れられない作品です。

雷蔵ファンはもちろんのこと、時代劇ファンは必見ですビックリマーク