不正輸出  
暗視カメラ、中国へ ネット落札 留学生を書類送検 外為法違反容疑




中国へ輸出されたものと同型の暗視カメラ=東京都千代田区の警視庁本部で2017年11月24日午後3時26分、堀智行撮影

軍事目的でも使われる米国製赤外線暗視カメラを中国企業に不正に輸出したとして、警視庁公安部は24日、東京都足立区の中国人留学生の男(22)を外為法違反(無許可輸出)容疑で書類送検した。暗視カメラは搭載されていた国土交通省の防災ヘリコプターから取り外され、廃棄される予定だったが、インターネットのオークションサイトに流出し、留学生が落札したという。 
 
米国製の赤外線暗視カメラが中国に不正輸出された事件で、外為法違反(無許可輸出)容疑で書類送検された中国人留学生の男(22)が、他にも軍事用の監視カメラなど約10点をインターネットのオークションサイトで落札し、中国人民解放軍などに売却しようとしていたことが捜査関係者への取材で分かった。ほとんどが中国へ輸出されたとみられ、警視庁公安部はネットオークションが不正輸出に悪用されているとみて警戒を強めている。 

 
<ニュースの一報>中国企業に不正輸出 留学生を書類送検  .
 
 捜査関係者によると、留学生は2015年の来日直後からネットオークションで軍事施設で使われる監視カメラや、機器の故障の有無をチェックするオシロスコープなど約10点を落札し、中国へ輸出していたという。また、7月の家宅捜索では、別の赤外線カメラも押収された。これらの品はいずれも輸出規制の対象品の可能性があったという。 

 留学生は落札後、友人とチャットで売却先について相談。「人民解放軍装備部」や兵器の技術研究で知られる中国・南京の大学、ステルス戦闘機などを開発している瀋陽の飛行機製造会社の名前を挙げて「買い手を探してみようか」などとやりとりしていた。 

 留学生は公安部の調べに「日本のオークションサイトは安価で入手できるので中国で高く売れた」と供述したものの、売却先については「覚えてない」と話しているという。 

 送検容疑は昨年2月、米国製赤外線暗視カメラを落札し、中国の企業に不正輸出したとしている。 

 留学生はこの企業の担当者に「米軍の物です」と説明したうえで、写真や製品番号を添えたメッセージを送って売り込みをかけていたという。輸出する際には、企業側の指示で申請書類に規制対象とはならない「パノラマカメラ」と虚偽の内容を記載していた。公安部は留学生が落札品の性能を熟知した上で輸出を繰り返したとみている。 

 サイトに輸出規制品が流出している現状について、大手オークションサイトの担当者は「規制品の中には国内での流通は認められているものもあり、一律に出品を禁止することは難しい。外国に持ち出す場合は落札者本人が関連法を確認すべきだが、注意喚起や啓発も検討していきたい」と話す。 

 捜査幹部は「不正輸出は企業犯罪のイメージが強かったが、安値で規制品を入手できるサイトを介することで個人にも裾野が広がりつつある。不正輸出の新たな温床になりかねず、対策が急務だ」と警戒している。

 
購入企業、軍部転売か 

 送検容疑は昨年2月、大手オークションサイトに出品されていた暗視カメラを55万円で落札。同年5月、国に無許可で中国の企業に香港経由で輸出し、約250万円で売却したとしている。留学生は容疑を認め「売却した金は生活費や学費に使った」と供述しているという。 

 輸出先の企業は中国国内向けの軍事用品を扱っており、同国内で転売されたとみられる。最終的な転売先は不明だが、公安部は人民解放軍など軍事関連部門に渡った可能性もあるとみている。 

 

インターネットオークションを使った不正輸出のイメージ


 暗視カメラは元々、国交省が2006年に米国から輸入したヘリ「愛らんど号」に搭載されていた。同省は15年9月、三菱電機に別のカメラとの交換と廃棄処分を発注したが、下請け業者が勝手に転売し、複数の業者を経てオークションサイトに出品されたという。 

 カメラは世界的メーカー、フリアーシステムズ社(米国)の「スターサファイア3」。約3キロ先まで撮影できるほか、夜間も地形や建物の状況を詳細に把握でき、アフガニスタン戦争(01年開戦)やイラク戦争(03年開戦)でも使用された。新品だと5000万円以上する。米国から中国への輸出実績はないという。 

 軍事利用が可能なため、このカメラの輸出入には国際武器取引規則に基づく米国の許可が必要になる。また日本の外為法でも輸出に経済産業相の許可が必要な「リスト規制」の対象品とされている。ただオークションサイトへの出品を規制する法律はないという。 

 オークションサイトにカメラが流出したことを受け、国交省は6月、三菱電機を2週間の指名停止措置にした。また警視庁は、三菱電機に廃棄処分したと虚偽の報告をしたとして、下請け業者を廃棄物処理法違反容疑で書類送検した。 

【堀智行】