「まずは、君に謝らないといけないことがあるんだ。」



彼が端を発する。




「えっと…なんですか…?」



彼は深い色の瞳で私をじっと見つめ、




「〝あの夜〟のこと。」



と。

ボソッと溢した。




「えっ…」



〝あの夜〟…

それってまさか、私の犯した過ちの…?




「君が酔い潰れて、「帰りたくない」って抱きつかれて。それでこの部屋に連れてきて、そしたら君が俺に甘えて。…って…話したよね?」

「はい…」



酷く酔っていた私は、その夜のことをほぼ何も覚えていない。

彼から聞いた一部始終を、信じて反省する他なかった。




「話の大部分は本当。でも、あの夜、本当は俺と君には何にもなかったんだよ。」




それが、嘘…?





「それってどういう…」



でも、にわかには信じがたかった。

何せ翌朝目覚めたら、私は一糸纏わぬ姿でベッドの中にいたんだもの…











ーあの夜。





「…『カズ』か…」



酷く酔っ払い、眠ってしまった君が目覚めるまで、俺は傍にいることにした。

暫くして、君は。




「ん…」

「あ、起きた。」



「…んー。」

「大丈夫? かなり酔ってたみたいだけ」



起きるなり俺に抱きつき、それを解くと




「…私のこと嫌い?」



と、尋ねた。




「や、嫌いとかじゃなくて…」

「…じゃあ、好き?」



「…好きだよ。」



ありったけの嘘を君に囁く。




「嬉しい…」



そして、そんな俺の嘘に笑う君。

可愛いな、とただ思った。



少しだけ、下心がふつふつとしていたのも事実だった。





「…好きだよ…」



もう一度囁き、君を抱き締めた。

君も俺を抱き返す。







ああ…このまま…







抱き締めたまま、君に体重を掛け倒れた。

その頬に指を滑らすと、君はくすぐったそうに肩をすくめる。

そのまま、指を唇まで滑らせた。

柔らかなその唇に、俺のを近づけていく。

鼻が触れ、吐息が交わる時。





「……カズ…」



君は俺をそう呼んだ。

俺は動くのを止め、ん…? と聞き返す。




「……カズ……だいすき……」




君が喜んだのは、俺からの言葉なんかじゃなく。

夢の中の〝カズ〟の声…






「…ふっ…馬鹿だな、俺…」



何してんだろ、俺…





我に返り、俺は君から離れた。


すると、君も一緒になって起き上がり、



「ねぇ…脱がして…?」



と。

俺にねだってきた。

それはまるで、子供のように…




何度か断ったが、それは君を不安にさせるだけなのだと知った俺は、指示されるがまま、君をすべて脱がせた。

その上で、俺から離れようとしない君を何とか説得し、布団をかけ直した。





「今日はもう寝よう。ね?」


「うーん…」




暫く頭を撫でていると、



スー…スー…




と。


可愛い寝顔と共に、寝息が聞こえてきた。




「おやすみ。」



そして今度は、やましい気持ちなど何もないまま。

俺も君の隣で、眠りについた。


~続~