「何を期待してたんだろうね、私…」
ぼやけた視界で、赤が青になって。
一歩を踏み出す力が湧いてこなくて。
チカチカと点滅して、また赤になる。
耳に響く雨音。
まつ毛から滴り落ちた水滴。
雨が私を濡らしてく。
雨が…
「…えっ……?」
ピタリと止んだ。
私は一瞬、何が起きたのか分からなかった。
ただ黙って見上げた頭上に、見たこともないチェック柄の傘が…
「やっと見つけた…」
傘の持ち主…
「…松本さん…? どうしてこんなところに…」
松本さんはいつもよりラフな格好をしていた。
お洒落なセットアップを来ている彼にしか、私は出会ったことがなかった。
「君を探してた。」
「えっ?」
松本さんが…私を?
それで雨の中を歩いて探し回って、見つけてくれたの? 私なんかのことを?
「心配だったから。」
「心配?」
私が首を傾げると、
「あいつに酷いこと言われたりしなかった?」
と。
「あいつ…?」
誰のことを言っているのかが分からない。
「ごめんね、こんなことに巻き込んで…」
巻き込んで…?
ますます訳が分からなくなって悩む私に対し、松本さんは続けた。
「…カズのこと。」
カズのこと…って…えっ??
「どうして松本さんがカズのことを…?」
知ってるの?
二人は知り合いだったの?
「大丈夫?」
と、優しい声で顔を覗き込まれる。
「あ、えっと…」
何に対しての「大丈夫?」なのか、よく分からない。
「ねぇ、泣いてた?」
ただ、松本さんの声はとても優しい。
「な、泣いてなんかっ…」
私が答えないうちに、松本さんは私の頬を優しく拭った。
その手は、とても暖かかった。
「ケチらないで、傘くらい買わなくちゃダメでしょ? 風邪引いちゃうよ?」
「あ…ごめんなさい…」
フフッと笑った顔に、何だかとても安心した。
「あ、ケチなんじゃなくて、せっかち? なんだっけ?」
「えっ…」
ー「…オマエは本当、せっかちなのよ。」
カズの言葉が思い出されると、途端にドキドキし始める。
「とにかく行こう。俺に着いてきて。」
優しく肩を抱かれ、喧騒の街へと引き戻された。
~続~