バーを出てからというもの、私はゆっくりゆっくりと歩いた。
そんな風にしか歩くことが出来なかったのも本当。
でもそれ以上に、
もしかしたら、カズが追いかけて来てくれるかもしれない…
そんな淡い期待…いや、願いを込めてのことでもあって。
けれど、そんな都合の良い話は映画の中だけでしょ…?
分かってるよ。
カズは来てくれない。
頭のどこかで分かっていた私は、ゆっくりを歩みを進めながらも、決して後ろを振り向きはしなかった。
これ以上、傷つきたくなかった。
……ああ…もしかして私、本気で…
恋なんて、いつか簡単に空から降ってくる。って…そんな風に思っていた私。
それを拾い上げたなら、大事に抱き締めて、愛し愛され…
そんなことを想ううちに、ポツリポツリと降り始めた雨。
空から降ってきたそれを掴もうとしたって、冷たくこの手を濡らすだけ。
それが恋だと気付いた途端、スッと離れていく。
こんなに寂しいものなの…?
こんなに儚いものなの…?
私がしたかった〝恋〟とやらは…
「……カズ……」
貴方にとっての私は、ゲームに出てくるキャラクターと同じだった。
優しさと言葉とを操って、堕ちた方が負け。
…私はカズに負けた。
だから…
…バイバイ。
なんだよね…
ザー…
次第に強まっていく雨。
街では多くの人が、身を寄せ傘に入ったり、雨だ雨だと困ったようにはしゃいでいる。
ネオンが濡れた路面に反射して、いつもより明るく眩しく騒がしい街。
そんな景色を今は見たくなくて、私は人気のない道を選んで歩いた。
カズと過ごしていくうち、それまでは虚しくなるだけだった金曜の夜も、案外悪くないと思えていた。
でも、それも今は…
華やぐ金曜の夜の街をようやく抜けると、赤信号で立ち止まった。
さっきまでとは打って変わり、車一台通らない静けさ。
雨音が、更に強まった気がした。
着ていた服は勿論のこと、髪もバッグもびしょ濡れになっていた。
この状態では目頭だけが熱く、流れた頬もほんのりと暖かかった。
…ねぇ…カズは今、なにしてる?
やっと、兄の独断で決行されかけていた〝政略結婚〟が破談になったのに。
やっと、自由な恋愛が許されたはずなのに。
…ねぇ、カズ。
それは貴方との関係をも終わりということだなんて、そんな当然のことなのにね。
出来たら貴方とずっと一緒にいたい、だなんて…思っちゃってたみたいなの。
…馬鹿だよね。
~続~