「それだけなの…?」



と、思わず口にしていた。

あまりにも淡々と、台詞みたいに『良かった』なんて言うものだから…




「他に何があるってのよ? 良かったじゃない。だって嫌だったんでしょ?」

「うん…」



もっと驚くと思ってた。喜んでくれるのかなぁって期待もしてた。




「だったら『良かったじゃない』ってなるよね、普通。」

「そうだけど…」



どこか冷たく乾いて聞こえる声。




「…つまり、もう要らないってことだしね。」

「えっ?」



理解が出来ずに聞き返した、その言葉の意味。




「貴女がしたかった〝恋愛〟をさしてあげる…ってことだったでしょ?」

「あ…」



『オマエ』から『貴女』へと開いた距離。




「もうその必要はなくなったワケだから、俺も要らないよねってことよ。」

「それは…」



『理由』がなくなった途端、呆気なく終わろうとしているこの関係。




「ねぇ? だってそうじゃない?」

「でも…」



『違う』と反論したかった。
『このままでいて』と甘えたかった。




「…所詮お遊びよ、こんなのは。」

「…遊び…?」



だけど、カズにとってはその程度の関係だったのだと改めて知った私は。




「そう。貴女もそうでしょ?」

「私は…」



いちいち痛むこの胸に、今になって気付かされた。




「だから…」

「私…っ…」



この気持ちの名前…




「…バイバイ。」



もしかしたらこれが……?

なんて。








「…バイバイ…なの…?」
 


やっと気付けたのに。




「そうよ。バイバイ。」



やっと自由になれたのに。




「…やだ…これで終わりなんて、そんなの…」



伝えることさえ出来ない。




「でも、これでバイバイなのよ。」



伝えたって、返事は分かりきっているから。




「……そっ…か…そうだよね…」



むしろ、今まで『付き合ってくれていた』ことに感謝しないといけないくらいなんだから。




「もうこんなことは忘れてさ、好きにしたらいいじゃない。」



カズはもう、私を見てくれはしないのだから…




「……分かった。」



私は席を立ち、飲んだ分のお金をカウンターに置くと。




「所詮…お遊びよ。こんなの。」



色のない声の後に続けた。




「……バイバイ。ありがとう。」



と。




「…バイバイ。」



結局、私の顔すら見向きもしないカズひとりをバーに残して。

私は、カズと出会い、幾度となく過ごしたその場所を後にした。





変わらず華やかな街。

今、この滴は何色なんだろう…?


~続~