私はバーを出て、華やぐ夜の街を更に奥へと突き進んだ。
やって来たのは。
「…寒い…」
カズと何度も訪れている海浜公園。
外灯はあるものの辺りは暗くて、人の気配なんて全くなかった。
「そんな都合よく来てるハズないよね…」
分かってはいたけど、カズに会いたくてたまらない今、僅かな望みでも抱いていた私。
「カズ…会いたい…」
潮風の匂い。ひんやりとした風。
カズと見た街の景色。カズの横顔。
色んな話をここでした。
最後にここに来たのは確か…
パーティーの前だったね。
『行きたくない』と俯く私を、ギュッと抱きしめてくれたっけ。
キスをして。
『バカップルみたい』って笑い合って。
凄く…凄くね。
安心したんだよ。
カズ。
私ね、婚約は破談になったの。
私の本音を、誰よりも近くで聞いてくれていたカズに。
いち早く伝えたいの。
ねぇ…
…どこにいるの?
「電話…なんで繋がらないの…」
ほんの隙に消えてしまったカズ。
ねぇ、どうして…
「…何してるの? こんなとこで。」
「えっ!?」
声がしてパッと振り向くと。
「君も好きなんだ? ここ。」
「あっ…あの時の…」
カズじゃなかったことにはガッカリしたけど、言っていた通りに彼に会えたことには驚きを隠せない。
「ふふっ、また会えた。なんかね、そんな気がしてたんだ。」
「あの…どうしてここに…?」
カズとここへ来る時。
他に人がいるのを見たことがなかった。
「ここ、いいよねぇ。…君は? なんでここにいたの?」
「私は…」
彼は私の問いには答えずに質問を重ねる。
「…教えて貰ったんです。ここ。ふたりでよく来てたから…だから…」
「カズって人?」
「えっ、なんでカズのこと…」
「前に言ってたもん。期限つきの恋人…だって。」
「そうでしたね…」
「その人と何かあったんだね…」
彼の柔らかな雰囲気の中には、やっぱりどこかカズに似ている鋭さもあって。
「電話が繋がらなくなっちゃったんです。それで初めて、私は彼のこと何にも知らなかったんだなぁ…って気付きました。…彼は私のこと色々聞いてくれて、助けてくれていたのに。私、彼の嫌がるようなこと、知らないうちにしていたのかも…」
つい、話してしまう。
「それって…知らない君の所為? 知って貰おうとしない彼の所為?」
「え…」
「君が彼のことを知らないのは、確かに君が知ろうとしなかったからなのかもしれない。だけど、君が知りたいと思っても、彼に知られようって意思がなければ、結局同じなんじゃないのかなぁ?」
「ん…? んーっと…」
それってつまり…
「彼は相当、自分のこと話すのが得意じゃない人なんじゃない? 不器用なんだよ、きっと。」
「不器用…」
あのカズが?
自分のこととなると不器用になるの?
私のことは何でもお見通しで、器用に立ち振る舞ってるように思ってたけど…
「人って見た目じゃ計れないものだよね。」
彼が、ふわりと笑う。
「俺は、もっと君のこと知りたいな。」
「私のこと…?」
そして。
空気みたいに私に纏わり付き、引き寄せられた頬に、その柔らかな唇が触れた。
~続~