カズのことを考えると
心臓がドキドキと音を鳴らす。


カズのことを考えると
呼吸が苦しくなる。


それなのに。


カズのことを考えると
妙な安心感がある。





『この間はごめんなさ|』





…カズ、どうしてあんなに
不機嫌だったんだろう?

メッセージでやり取りした時は
いつも通りだったのに…

何か嫌がるようなことしたかな?


あの日のやり取りを遡って見るけど
何の変哲もないやり取りだった。


私は打ち込んだメッセージを消し
電話番号を表示させる。


発信マークをタップするのに躊躇ってる指。


『会いたい』と思った瞬間、何の迷いもなく呼び出せていたことが嘘のように。

指が重たかった。





やっとの思いで指を動かそうとした時。





「おいっ、お前…どういうことだよ!?」



兄が、部屋のドアをノックもせずに怒鳴り込んできた。




「えっ、何が?」



兄は興奮を抑えきれないまま。




「ホテルの息子の…お前の相手の関係者が…っ…」

「うん…」



息切れしたまま。




「『婚約は破棄してくれ』って言ってきた…」



と。

肩を落とす。




「え…?」



どういうこと…?




「お前、会ってないんだよな!? 連絡も取ってないよな!?」



肩を掴まれ、激しく揺さぶられたけど。




「何言ってるの、当たり前じゃない。相手の顔も名前すら聞かされてないのに…」



心当たりなんて、全く検討もつかなかった。




「名前すらって…そうだっけ? や、そんなことこの際どうでもいいんだよ。」



私の肩を解放した兄は、自分の頭を掻きむしり。



「どうすんだよっ。…これで来期のプロジェクトも白紙だな…」



と。

相変わらず仕事のことしか頭にないみたいだった。




…婚約破棄…

ってことは…私もしかして…




「…ねぇ。私、結婚しなくてもいいの?」

「…ああ。そうなるな。」



やった…



やったぁ!





焦り、落ち込む兄には悪いけれど
私の心は晴れやかで。



そうだっ、カズに報告しなきゃ。





ブツブツ言いながら
兄が部屋を出て行くのを確認すると。

躊躇っていた発信マークを
勢いよくタップする。





だけど。





『お掛けになった電話番号は現在使われておりません ー』





あれ…?





『お掛けになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上 ー』





嘘だ…





『お掛けになった電話番号は現在 ー』

『お掛けになった電話番号 ー』

『お掛けになった ー』





なんで…??

『カズ』って書いてあるのに…
いつも掛けてる番号のハズなのに…



何度掛け直しても、応答は変わらなくて。





『この間はいきなりいなくなって
ごめんなさいm(_ _)m』

『電話番号変わったの?
全然繋がらなかったよ(..)』






送ったメッセージへの返信はおろか。

丸一日経ってもメッセージを
読んだ記録さえ付かなかった。


~続~