行きつけの鮨屋が店を閉めた。
僕の一ヶ月に一回の唯一の楽しみだった。
そこの鮨屋。
一口目の美しい佇まいの赤身が
適度な緊張感を持ってて良いんだ。
シャリッとした冷凍感なんて
全く無い、とろけるような赤身と
僕の大好きな ここの「すめし」
が舌の上で融合した時に、
ドバッと唾液が溢れ出てきて、
噛んでいる内に、だんだんうまみ
出てきて、「うまーーいっ。」と
言おう思った瞬間、おろし立ての
わさびの鼻をつんざくような刺激
が効くーっ。って感じで、1拍ほど。
そして、鼻の穴のまわりをビリビ
リさせながら、やっとのことで
「うまいっ。」
この赤身が食えなくなるなんて。
「今日はさかな無いよー。
全然いやしねぇんだよー。」
えっ。まじですか。
まあ、嘘に決まってる。
「あわびなんか、手間をかければ
かけるほど、小さくなりやがるんだ。」
「うちのいかは めいいっぱい仕事し
てますから。皮という皮は最後の最
後まで剥いてますから。堅いのがい
かと思ってもらっては困ります。はい。」
「うん?うちのめし?砂糖なんて使わねぇよ。
砂糖は高いから塩使うんだ。ひっひっひーっ。」
「なんて冗談だけど、うちは塩を使ってます。
その方が胃にもたれねぇーから。いくらでも
食べれるでしょ。」
「そのかわり、はっきし言って
米はいいものを吟味してます。はい。」
僕が一つ一つ名残惜しく噛みしめながら
食べているのに、おやじときたら、いつ
もよりなんだか陽気なんだ。
肩の荷がおりたのか、軽口が多い。
僕はこれからどこに行けばいいんだよ。
ちくしょー。やめるのかあ。
やめるくせに、
「今日はめずらしいのがあるよ。
こちだよ。こち。」
なんて、僕が今まで食わしてもらった
ことのないものまで仕入れているし。
隣に座っていたおじさんは、ほろ酔い
気分でろれつが少し回っていない。
舌ったらずな感じで
「そろそろ、にぎってッ。」
と言っているのがとても可愛くて微笑んだ。
鮨屋のおやじは
「やっぱし、棚卸は大切なんですよ。」
と訳のわからない話を力説している。
う~ん。
ぎこちない愛想笑いを浮かべて、おやじに
かける感謝の言葉をあれこれ考えながらも、
結局、すしを噛みしめて、
「ちくしょー。うまいなあ。」と
言ってただけなんだ。