毎年この頃、転勤シーズンになると
思いだす出来事があります。
別の組織で起こった事件なのですが。
そのお客様は地域では結構有名な中堅企業で
売り上げも順調で、
お取引も長く継続していただいてる
上得意客様です。
毎年3月には、
まとまった金額のご注文をいただく事が
習慣になっていました。
担当の営業マンもこの時期のご注文を
毎年楽しみにして
その年も大いに期待していました。
ただし、そのご注文を承りに訪問する際には
必ず支店長と一緒にお伺いする習わしで、
いわゆる上司の表敬訪問が慣習となっていました。
その年も、例年通り
訪問の日時のお約束をいただいて
先方の会社の応接室に通され
担当営業マンも一通りのご挨拶をして
高額のお取引のご注文も頂戴いたしました。
同行していた支店長もほっとして
社長様にお礼のご挨拶を申し上げました。
「毎年、高額のご注文を賜りありがとうございます。
私のいる限り、ご安心していただけるよう
一生懸命努めさせていただきます・・・」
「ちょっと、待て!
今なんと言った?
私のいる限り?
いる限りとはどういうことか?
じゃあ、転勤したら、
あとは知らんということか?!」
さあ、大変です、上得意先様の企業の社長様の
逆鱗に触れてしまいました。
「そんな、了見でいるやつとは取引なんかでけん!
全部キャンセルだ!出ていけ!
今後一切出入り禁止だ!
今までの商品も全部返品だ、
二度と来るな!」
担当の営業マンは顔面蒼白ですし、
くだんの支店長は、慌てて土下座して
「決してそのような意味で申し上げたのでは・・・」
と、平謝りするのですが
もう取り付くしまもなく
怒った社長は荒々しくドアを閉めて
部屋を出て行ってしまわれたので
取りなすすべもありません。
そんな気性の社長さんですから
その企業の役員さんたちも
こんなことになってしまったら
「もう手が付けられません、
どうか今日のところはお引き取りください」と
促されて、やむを得ず
一旦戻って出直すことにして、退去することにしました。
さあ、帰りの車の中で、この担当の営業マンは
「社長を怒らせたのは支店長だ、
部下の足を引っ張って、営業成績台無しにして
上得意客失ったのは
全部支店長のせいだから・・・」
と、泣きわめく始末です。
帰社するなり、担当営業マンは
自分の上司である販売課長に
事の一部始終を泣きながら報告します。
販売課長は、この営業マンの上司であり
支店長の部下です。
販売課長にしてみれば、やり切れません。
自分の上司の不始末です。
販売課長はその話を聞くなり
とる物もとりあえず車を走らせて
夜の9時を回っていましたが
社長様のご自宅を訪問いたしました。
社長様はご在宅でしたが
もちろん面会していただけません
ご家族の方も困り果て、
とりなすすべがないものですから
「どうぞお引き取りください」の一点張りです。
販売課長は、仕方なくその夜は
社に戻りました。
もう10時を回っていましたが
販売課長の戻りを待っていた担当営業マンも
落胆の色を隠せません。
支店長は、おろおろするばかりで
何の解決策もありません。
その夜はとにかく帰宅して、
翌日対策を考えることにしました。
しかし、失った取引の大きさに体が震え
まんじりともせず夜が明けてしまいました。
よく朝、事の次第を知った
支店中の全社員が、支店長の言動に失望し
とにかく上を下への大騒ぎです。
この販売課長、
とにかく社長様のご機嫌を直していただこうと
昼は会社へ、夜はご自宅へ
4日間昼夜日参しました。
とうとう5日目に、
あまりに熱心に詫びを入れてくる販売課長の誠意に
根負けした社長様から、
役員が謝罪に来るのなら「許してやってもよい」の
一言を得ることができました。
そのエリア所管の販売部門の担当重役が
支店長の不始末のしりぬぐいに
その社長様をお詫び訪問し
ようやく許していただくことは、かなったのですが
しかし、その年のご注文はいただけず、
全部キャンセルを免れることができただけでした。
支店長はもちろん更迭になりました。
逆に誠心誠意信頼の回復に努めた販売課長は
その後に栄転しましたが。
さて、長いお話になりましたが、
たった一言
「私がいる限り」
この一言は、
転勤族の営業部門に携わる人間が
絶対に口にしてはいけない言葉なのです。
会社は全社員が全力を挙げて
お客様満足のサービスを
提供しなければならないのです
「私がいる限り」などと、
一営業従事者の
思い上がりでしかないのです。
誰のお客様であろうと、
自分のお客様でなかろうと、
お客様にとってはそんなことは関係のないことなのです
営業現場の第一線で直接お客様に接する
ビジネスパーソンは心すべきエピソードです。