今ここにいる私は空っぽだ。

===

今日のお昼も母と一緒に食べようと、会社のお昼休みに母の病室へ行く。

母は、ボーッと天井を見つめるだけ。新しい事と言えば、鼻に酸素吸入器が差し込まれていた。

スープジャーで持ってきたカレースープ(先日私が作ったカレーをダシで伸ばした)を、スプーンで口まで運んでやる。

私が作ったんだけど、味どうよ

母はニコニコしながら「美味しいよ」と言った。

いやいや、まだあなたには敵いませんよ

母は栄養剤の点滴をしている。本人は「治療のために、お薬を点滴してもらっている」と信じ込んでいる。

おっと、治療中でしたか
頑張ってるね

そう言いながら母の頬を撫でると、

早く退院して、みんなにお礼しに行かなくちゃ

と笑顔で応えた。

===

母のベッドには、看護師さんとの連絡用のホワイトボードが下がっている。そこに

オムツ・尿漏れパットをご用意ください

と書いてあった。先日かわいい刺繍の入ったパンツを購入し、母も喜んでいたのに。

しかも私は未婚だ。子供はいない。人生初のオムツ購入が、母のものとなった。

地域包括支援センターに連絡すると、私の住む市ではオムツの助成金が受けられるとの事。介護保険とは異なるため、本来なら家族が市役所に出向き手続きを行う必要があるのだが、地域包括支援センターの方で動いてくれるそうだ。有難い。

===

私は明日から1週間、会社のご好意で有休を取る。もしかしたら、このまま忌引休暇に突入するかもしれない。

慌しく業務引き継ぎを行う。こんな時のため用意しておいた訳ではないが、業務マニュアルを作っておいて良かった。仕事を引き受けてくれたみんな、有難う。

ちゅうか、そんなに私、みんなが大騒ぎする様な重要な仕事を持ってましたっけ。

===

今私は何も出来ず、事務所〜屋上〜トイレを行き来している。正確には何も出来ないのではなく、何も考えられないのだ。

会社としては、さっさと早く帰ってほしいだろう。申し訳ありません。

しかしここで早退して母の顔を見に行くと「何かあったの?」心配されてしまう。早退しても、終業時間までどこかで時間を潰せばいいだけの事なのだが。

空っぽにの私は、夏空を見つめる。