少し前の話です。
私の分身といわれた猫が、空の国へ旅立っていきました。
長患いで、覚悟はしていたものの、やっぱり気持ちは落ち込みます。
いくら家族同然とはいえ、猫のお葬式に忌引きの休暇をとるわけにもいかず、鬱々と会社に通っておりました。
今にして思えば、引きこもっているより働くことで気分も変わるので、仕事をしているほうが良かったのですが。
そんなある日。
取引先の会社に書類を届けに、銀座にいきました。
ひと月に2~3回は行く、通いなれた道です。
東銀座で地下鉄を下り、人ごみを避けて、新橋方面へ裏道を抜けていきます。
季節は秋の終わり頃。
もう陽は落ちて、一足ごとに夕闇が迫っていました。
まだ退社時間ではないし、夜に開ける店はまだ灯りを点けていないので、人影もまばらな時間です。
そんな時間にそんな所を歩いていると、なんともうらぶれた気持ちになるもんです。
俯いてトボトボ歩いて、抜け道の真ん中あたりまで来たとき、すぐ横の細い道路の反対側、薄暗い建物のすき間から、小さな黒い影が出てくるのが見えました。
「あっ、猫だ!こんなところにもいるんだ!」
立ち止まって見ていると、その猫は、ゆっくり、のっそり、こちらへ向かって歩いてきます。
だんだん近づいてくると、その猫がとても大きい・・・今まで見たことがないくらいの大猫だと気が付きました。
じっと見ていると、大猫はゆっくり道路を横切って、私の方へ歩いてきます。
足元まで来たので、私はしゃがんで猫に手を伸ばしました。
大猫はキジ模様。
とても大きいけど引き締まった筋肉質で精悍な感じです。
私が触っても嫌がる素振りも見せず、かといって擦り寄るわけでもなく、私が撫でている間、じっと立っていました。
しばらく撫でてから、手を引っ込めると、まるで
「もう、いい?」
という感じで、身体の向きを変えて、もときた道をのっそりと歩いて、建物のすき間に消えていきました。
その間、チラリとも私の方を見もしないで・・・
私は、あっけにとられてしばらく立ちすくんでいましたが、仕事の途中だったのを思い出して急いで歩き始めました。
それにしても、あの大猫は、どんな用事があって出てきたんだろう。
猫がコンビニに買い物に行くわけはないけど・・・
薄ら寒い夕暮れどきに、人影のないビル街へ・・・
まるで私が来るのがわかっていたみたいに、迷う素振りも見せずに真っ直ぐ私に向かって歩いてきたように見えるけど・・・
私が撫で終わったら、また迷う素振りも見せずに帰っていったけど・・・
そういえば・・・
私の分身といわれた猫もキジ模様でした。
エリザベスという女王陛下みたいな名前の、プライドの高い猫でした。
もしかしたらエリザベスが、雲の上の玉座から下界を見下ろし
「ちょいと!(なぜか女将さん口調)、あの人が、あんなところでシオッタれてるよ。
誰か行って、ハッパをかけておやり!」
そのとき東銀座で手が空いてるのは、あの大猫だけで
「へい!わかりやした(なぜか銭形の親分口調)ちょっと、ひとっ走り行ってきやす」
と、親分自らお出ましになったのでは?
事の真偽はともかくとして、それ以来私は、有形無形のたくさんの猫たちから限りない愛情を持って見守られているのを感じます。
お昼寝にゃんこでございます。
昨日、久しぶりの日差しを浴びつつ、ベランダでゴロニャンコ
手前がハルちゃん 奥がアキちゃん