数日前の朝のこと。
家を出ると、爽やかな5月の風がふんわりと頬を撫でる。
木々は、むせ返るような新しい緑色。
通りすがりの塀の上から、開いたばかりのバラの花が、顔を覗かせている。
気持ちの良い朝だなあ
足取りも軽く歩いて、角を曲がると・・・
狭い道の先、ちょうど真ん中あたりに、男の人が立っていた。
遠くからでも見えるごま塩頭とグレーのジャージ姿。
痩せて長身の人が、道の真ん中でじっと立っている。
見知らぬ人だ。
ちょっと「いやだな~」と思った。
今どき、方々で思いもかけない物騒な事件が起きてる。
近所だからって、何が起きるか分からない世の中だし・・・
でも、そこを通らないと先に進めないし、急いでいるし。
そこで「何も起こらない」に1000点掛けて、そっとその人の後ろを通りすぎようとした。
私が後ろをそっと通り過ぎるのに気が付いているのか、いないのか・・・
その人は、相変わらずじっと立ち尽くしている。
やっぱり、かなり不審だわ・・・
と通り過ぎながら、さりげなくその人の背中を見たら、だらんと下げた片手がリードを握っているのが見えた。
遠くからでは見えなかったけど、黒く細いリードが、向かいのお宅の門柱まで伸びており、その先に・・・
黒い大きな猫がいた
黒猫は、門柱にピッタリと身を寄せて、這いつくばっている。
スフィンクスを平らにしたような格好だ。
思わず「ああ、猫ちゃんのお散歩してるんですか?」
と声を掛けてしまった。
すると、その人は、破顔一笑・・・猫バカの顔になった。
「そうなんですよ・・・少しは外の空気を吸わせてやろうと思って・・・」
「うちでも外に出していないんで、本当はお散歩させてやりたいんですけど、なかなかハーネスに慣れなくて」
「そうそう、そうなんですよ」
一瞬にして、猫バカ同志、にゃんこトークが始まった。
黒猫の体勢を見れば、お散歩を全然楽しんでないのがよく分かる。
いきなり外に連れ出され、知らない場所で「外の空気を吸え」といわれてもねえ・・・
世界は、とてつもなく広くて、とても猫の手には負えません。
危険を避けるために隠れる場所もなくて、門柱に気持ちだけ身を寄せているという感じ。
さらにいきなり知らない人まで現れて、大きな声で話し始め・・・
黒猫は、固まったまま、目をまん丸に見開いて、こっちを見ている。
黒猫がとても気の毒になったので、早々に話を切り上げて歩き出した。
人間の親心も、猫にはなかなか通じない。
猫には猫の事情ってものがあるので、そこのところはヨロシク・・・といいたげな黒猫でした。
こちらは外猫のアキちゃん
なかなかの美少女です。