去年まで、駅に行くときは大きな駐車場を通り抜けて近道していた。
少し高台にあるので、駐車場に入ると、高いビルの間からポッカリと空が見える。
毎朝、その空を眺めるのが楽しみだった。
晴れていても、曇っていても、雨が降っていても、空は毎日それなりに違う表情を見せてくれた。
でも、去年の暮れに、その駐車場が締め切られた。
また高いビルが建つんだろうか・・・
もう、この場所から空を見ることが出来ないのかと思ったら、ちょっと寂しかった。
今年からは、ちょっと回り道をして駅に向かう。
ほんの僅かな距離なのに、違う道から見るとお日様の位置が違う。
ほぉ~、そーか、ふむふむ・・・
なんて新しい発見をしたようで、それなりに面白がっているんだけど
新しい道を通るようになったら、毎朝思いがけない光景に出会うようになった。
一軒のお宅から、御主人らしき人が出てくる。
たぶん御出勤。
いつもダークスーツに黒いビジネスバッグというやや官僚的なスタイル。
そろそろ後頭部が、薄く、心もとなくなっているお年頃だ。
御主人は玄関から出て何歩か歩くと、クルッと振り向いて、今自分が出てきたばかりの家の上の方を見上げる。
すぐ後ろを歩いていた私は、ギョッとしたけど、私など眼中にないらしい。
御主人が見ているのは、自宅の2階。
私もつられて同じところを見た。
すると2階のベランダにお婆さんがいて、ニコニコしながら手を振っている。
御主人もニッコリ笑って手を振る。
ご主人は、また前を向いて歩きだすが、角まで来ると、また振り向いて笑顔で手を振る。
2階のお婆さんも手を振っている。
それを見てから、ご主人は角を曲がって歩み去る。
この光景を毎朝、見るようになったのだ。
まるで海外旅行にでも行くような、毎朝のお見送り。
最初はかなり驚いたけど毎日見ているうちに・・・
何となく、しみじみしたココロモチになってきた。
お見送りをしているのは多分母上で、出かけるのはご子息でありましょう。
母上は、こういうお見送りをいつから続けているのかな?
何年も、もしかしたら何十年も、こんな風に息子を見送っているんだろうか。
もしもそうだとしたら
親子で、ずっと長いあいだ穏やかな朝の時間を共有できたわけで
それはとても幸せなことだな、と思ったのであります。
たとえ、周りが何と思おうとも・・・
お隣さんのバラ。昨日、妹が写メしました。
カクテルという名前だそうです。
今日は、雨に濡れて重たげに頭を垂れていましたが、
その姿も、いじらしいような風情がありました。