4月に書いた、夏みかんをいつもくれた小川さんの話です。
以前、会社にいた小川さんは、横須賀にお住まいで、おうちに大きな夏みかんの木があり、その季節になると、社員みんなに夏みかんを持ってきてくれました。
この夏みかんで作ったマーマレードは、ジューシーで爽やかな甘みと程よい酸味、苦味が絶妙に混ざり合い、お店では買えない貴重なお味。
その小川さんは、温厚な老紳士でしたが、たった一つだけ、問題がありました。
なんと、すごい猫嫌いだったのです
話を聞いてみると、それなりの理由があったのですが・・・
小川さんは、小さい頃から今に至るまで地元をこよなく愛する自然派。
若い頃から、あちこちの山を踏破してきたらしい。
歳をとって高い山には登らなくなったけど、少し前まで紀州犬を飼っていて、一緒に近くの山や雑木林を散策するのを、何よりの楽しみにしていた。
そんな散策の折に見つけた草木を、自宅の庭に移植して育てていた。
ところが隣の家にアカという茶トラの猫がいて、この猫が小川宅の丹精している庭を荒らす。
大事に育てている草木の根っこを掘って用を足してるらしい。
それを見つけると、小川さんは「コラッ」と大声で追い払う。
でもアカは、小川さんが背中を向けると戻ってきて、同じことを繰り返す。
また小川さんが怒鳴る、背中を向けると同じことをする・・・
「どうもアカは、自分が家にいるときにわざわざ悪さをしにくるらしい。」
と、憮然と語ってくれました。
ところで奥様の方は猫好きらしく、ご主人が見てないところでアカを可愛がっているらしい。
小川さんは、それも忌々しいと思ってるようだ。
はは~ん
何となく分かった!
アカは小川さんを「おちょくって」いるんじゃないの?
嫌がらせという感じで・・・
でも、余計なことをいってアカがさらに迫害されると困るので、黙っていました。
その後、小川さんは会社を退職したけれど、昔気質の人なので律儀に暮れの挨拶にみえました。
そのとき他の人に聞こえないように小さな声で
「実はね・・・」
と思いがけないことを話し始めたのです。
「実はね、この前、子猫を拾っちゃったんだ」
「えええええっ~~?」
猫嫌いの沽券に関わると思ってるのか、あたりを憚る様子。
でも、どうしても誰かに話したいみたい。
「なんで?どうして?どこで????」
と、私は身を乗り出した。
そのいきさつとは・・・
小川さんは、毎朝長い時間をかけて散歩をする。
その途中、土手の辺りで何かの気配を感じて降りていったら、捨てられたらしい子猫を見つけた。寒い朝で大分弱っているようで放ってもおけず拾って帰った。
子猫を受け取った奥様が、すぐに獣医さんのところへ運び・・・
寒い季節、長い間放置されていたので子猫は予断を許さない状態ということで、しばらく獣医さんが預かって様子を診ることになったんだって!
「へえええ・・・」
と話を聞きながら、頭の中で言葉を捜していました。
「それじゃあ、もし、そこに小川さんが通りかからなかったら、その子猫は生きていなかったんですね?」
「うん・・・」
「小川さんは命の恩人ですね」
「そう・・・かも」
「そこに、そのとき、小川さんが通りかかったのは、何かのご縁ってもんじゃないですか?」
「ふむ・・・」
「もし、もしも、その子が助かったら?・・・小川さんちで飼ってくれますか?」
「・・・うん・・・かみさんも同じことをいうんだよ」
小川さんは、「このことは絶対誰にもいっちゃダメだよ」と繰り返しながら帰っていった。
その後、子猫がどうなったか聞いていない。
元気になって小川家の猫になっていればいいな。
うちの会社は猫好きが揃っている。
その中にずっといたから、やっぱり猫の縁を呼んじゃったんだわ。
「皆さんで遊びにおいで」といってくださるけど。
玄関に女郎蜘蛛が巣を作っているのを見つけたので名前を付けて挨拶してる、というのを聞いて、ちょっと腰が引けてる私です。
去年咲いたバラです