私の数少ない趣味は「書店めぐり」。

休みの日の午後など、ちょっと時間のあるときに本屋さんを覗くのは何よりの気分転換だ。

本屋さんも、繁華街、ビジネス街、住宅街と立地条件によって品揃えが違うので、思いがけないところで思いがけない本に出合えるのが嬉しい。

店ごとに作家さんのフェアなどやっていて、その現場(私には事件なので)に立つとその店の姿勢が伝わってくるのも興味深い。


圧巻なのは下北沢にあるヴィレッジバンガード!

今はあちこちの駅ビルで見かけるようになったが、下北沢の店は言語を絶する店づくり。ここを本屋と分からずに入って、そのまま出てくるかも?

なにしろ入り口あたりからすでにカラフルなグッズが溢れている。

迷路のような店内には、キャラクターグッズ、生活用品、ステーショナリーなどが上にも下にも横にもぎっしり。どれも「冗談でしょ?」という感じのビビッドな色使い。

山積みされているジャンクフードの禍々しさは、お祭りの屋台を思わせる。

そのお祭りもリオのカーニバル!!ここは一年中、毎日がお祭りだ。

コミックの売り場が一番充実してるけど、手書きのポップは独断と偏見に満ちており(やや字が汚い!?)思わずニヤリとさせられる。

意外なことに絵本の棚のセンスが良くて、ここで出会った作家さんもたくさんいる。

下北沢には、ペット用品やドラッグストアに買出しにいくので、いつも大荷物になるけど、やっぱり最後にはこの店に寄ってしまう。

今まで数え切れないくらい通っているのに、方向音痴なので店内で必ず遭難する。

休みの日の夕方、大荷物を持ってレジを求めて彷徨っている人がいたら・・・それは私です。

         クラッカー  クラッカー  クラッカー

と、話のマクラが長くなったけど、それというのも「とりぱん」との出会いを説明するためで・・・

ウイークデーは、いつも仕事帰りに夕食の買い物をするスーパーの近くの本屋さんに寄り道する。

毎日寄っても大して代わり映えがしないようだけど、時々サプライズがあったりして、まあ気分転換ですわ。

その日も、いつものコースで書棚を覗き、入り口に向かった。

レジの横はコミックの棚になっている。ここでコミックを見ることはないので私にとっては単なる通路。

その通路を通り抜けようとしたとき、棚の本から呼びとめられたのだ。

「ちょっと、こっち、こっち!アタシを忘れてるわよ!」

・・・・・・へぇ?なになに?

近寄って行ったらコミックの棚に「とりぱん」という本が5巻くらいまで並んでいた。

何気なく手に取ってみたら・・・ビニールでパックされているので中身は見られないが、鳥の絵といい、「とりのなん子」という作者の名前といい、何やら「匂う」ぞ!


この話をすると皆、「棚から呼び止められた」のは物のたとえだと思うらしいけど、本当に「ちょっと・・・」と呼ばれたのだ。

本は、平積みになっているなら目立つけど、棚に入れてあるといくら5巻並べてあっても目に入りにくい。しかもコミックの棚は見ないで通り抜けるだけなのに・・・


ずっと本屋に通っているけど、こんな経験は初めて!


        ベル  ベル  ベル

「とりぱん」は、一言でいうと、餌付けした鳥たちを観察するギャグ漫画なんだけど・・・

主人公は作者と思われる漫画作家。

1巻に、この作品ができるまでが描いてある。

それによると・・・一度は諦めた漫画家の夢を捨てきれず、講談社の漫画大賞に応募して結果が分かる前に会社に辞表を出したとか。

実家の庭で餌付けした鳥たちを見ていたら、アイデアが湧いてきたらしい。

最初はスズメがやってきて、次にオナガやヒヨドリ、さらにアオゲラやツグミも常連になる。鳥だけでなく、隣のデブ猫みーちゃんや、ユニークな母上の郷土料理、四季の移り変わりなどが、等身大の視線で愛着を込めて描いてある。

漫画で描いたエッセイという感じ。

作者の生まれ育った土地の風や光、空気の匂いがページをめくる度に溢れてくる。


疲れたときや、ほっと一休みしたいとき、ゆっくり眺めた作品だった。


ただ一つ悲しいことは、この作品の舞台が北東北だということ。

三陸の海の美しさも描いてある。

地震の後、作者が無事だということは分かったけれど・・・

「とりぱん」の舞台は、ずいぶん変わってしまったことだろう。


でも、作者「とりのなん子」さんは無事だったのだから、もう一度立ち上がって作品を描いて欲しい。悲しいことも含めて、たくさんのことを伝えて欲しい。

心配している人、応援している人たちはたくさんいるのだから。


もしも興味があったら、本屋さんを覗いてみてください。

コミックの棚から呼び止められるかもしれません。

こんな支援もあっていいですよね?


        とりぱん  とりのなん子

          講談社   ワイドKCモーニング  590円

           1~10巻まで出ています 


空をみる人-ヒメウツギ.jpg
お隣さんのヒメウツギ