チーちゃん、三たび登場
「今頃になってスポットライトを浴びるにゃんて」と雲の上でびっくりしているかも
猫の天国にギャラを届けなきゃ
アルバムから探し出したチーちゃんのプロフィール
「ちょっとピンボケにゃん」と雲の上からクレームが・・・
屋根に登ったりフランスパンを持ってきてくれたり、と数々のサプライズを巻き起こしたチーちゃんですが、本当のサプライズは、この後に待っていました。
今にして思えば、その頃の私は猫に関してまだまだ修行が足りなかったんですね。
家の中にいた猫は、うちに来る前に手術をしていたので、正確な知識がありませんでした。
クロネコ母さんに連れられて、うちの庭に引越してきてから兄弟たちと毎日元気に暮らしていたので人間の感覚だとチーちゃんは、まだセーラー服が似合いそうな学生くらいだと思っていたのですが・・・
気が付くと、何だかお腹が膨らんできたような?
ええっ?まさか???
オロオロしているうちにもお腹はどんどん膨らんできて、小さな身体でフーフーいいながら歩いてる。そのお腹を横目で見ながら・・・こちらは当惑というか心配というか、つまりどうしていいかわかりません。
うちの中に産室を作ってあげたほうがいいんだろか?
でも母猫は、子供を人間に見られるのを極度に嫌うというではないの。
人に慣れているとはいいながら、チーちゃんは外で生まれ育った猫だ。
人間の心配なんか、ありがた迷惑じゃないかしら。
チーちゃんはフーフー・・・こっちはオロオロ・・・
そして、忘れもしない5月の第二日曜日、つまり「母の日」の夕方
チーちゃんは何故かうちの台所の入り口にゴロンと横になっていた。
人が一番通る場所で寝なくても、もっと他に寝場所があるだろうに・・・
と思っていたら
ギョッ
チーちゃんの身体から、何か出てきた
もう、お産が始まっていたのだ
ええっ~~どうすんのぉ~~
私はどうすればいいの~
チーちゃんは結構落ち着き払っており、私をジロッと睨むだけ
「グズグズしてないで、ちゃんとやりなさいよ」って感じ
やるって、何を?どうするの?
私はずーーっと前に女流作家が猫のお産(犬だったか?)に立ち会ったというエッセイを読んだのを思いだした。とにかくその人に出来たのだから(同じ人間なんだから)きっと私にもできる、とこれ以上ないくらい希薄な根拠を頼りにお産の手伝いをするはめになった。
最初の1匹は、恐る恐るグニャグニャと動くのを引っ張りだして、へその緒を切り
産湯の代わりにチーちゃんに舐めさせて、呼吸をさせて・・・とへっぴり腰でやっていたが、あまりにも次々と出てくるので、そのうち緊張感が薄れてきて
ヘイ、いっちょ、あがり
と、すし屋が握りを台に乗せるような手つきになってきた。
まるで毎日猫のお産を手伝っているみたい。
生まれたばかりの子猫はちょうど握りずしくらいの大きさだしね。
とにかく人間、何でもその気になれば出来るもんですわ、おほほほ・・・
プラスチックの衣装箱の中身を出して、タオルを敷き静かな部屋に置いた。
チーちゃんは、そこを親子の寝室だと認識し、以後子猫が歩き始めるまで、そこで子育てをした。
天然ボケキャラのチーちゃんは私にお産の手伝いをさせただけでなく、出産を機に外猫から内猫へとステップアップを図ったのでした。
さてそれから・・・
今まで聞いた話では、母猫は人間が子猫を見たり触ったりするのを極度に嫌い、見られただけで食い殺してしまう、とか姿を消してしまうとか。
だからチーちゃんたちがいる部屋は、できるだけそっとしておいた方が良いだろうと思っていた。
ところが・・・
私が仕事から帰ってくると、チーちゃんがまとわり付いて離れない。
ご飯をあげても上の空。とにかくしつこく付きまとう。
一体なんなの?どうして欲しいの?
というと、私を子猫のいる方へ、先に立って導いていく。
そして私がいるのを確かめてから、子猫のいる箱へ入っていくのだ。
チーちゃん母さんが箱の中へ入ると、子猫がワラワラ寄ってきてお乳を探してお腹にしがみつく。チーちゃんは、大儀そうに横になりながら私を見てため息混じりに
「ほらね、私も大変なのよ」といってるみたい。
そりゃあ、まあ、大変でしょうね。
初産で5匹も生んじゃって。小さな身体に子猫がぎっしりぶら下がってて。
でも、どうして私を呼ぶの?今は何もしてあげられないのに?
どうもチーちゃんはずっと一人で横になっているのがつまらなかったみたい。
誰かが傍にいると気が紛れる、という感じだった。
そして私は、知らず知らずのうちに、ベビーシッターに仕立て上げられていったのでした。
チーちゃん、恐るべし
でも私もチーちゃん親子の傍にいるのは嫌じゃなかったし、面白かった。楽しかった。子猫の中でも身体が一番大きい子が良い位置でお乳を吸う。小さい子は、弾き飛ばされて兄弟の下敷きになる。ハラハラしながら見守るが、小さい子は、それなりになんとか生き延びていく。生まれたときから生存競争は熾烈なのだ。
こんなふうに長い間、じっと猫の親子の中にいて、ふと気が付いたことがあります。
母猫と子猫は言葉を交わしていないのに、どこかで繋がっている。
子猫が少しずつ動き始め、箱の外に出ていくようになると、それがはっきり分かりました。チーちゃんは全部の子猫の方を見ているわけじゃないのに、子猫が鳴くと、それが誰で、どこにいるのか、危険なことをしているのかどうか分かるらしく大概は放っておく。そして連れ戻した方が良いときは私を見るので、私が箱の中に戻す。
私も親子の輪の中にいるので、その意味が分かる・・・つまりこき使われていたんですけどね。
こういうのをテレパシーというのではないかしらん。
もしかしたら私達人間も、なまじ言葉を使っているもので、言葉を道具にして気持ちを伝えているつもりだけど、本当は言葉の奥にある気持ちが相手に自然と伝わっているのかもしれない。
こんなことを考えたのもチーちゃんがベビーシッターに任命してくれたから
チーちゃんは、やっぱり不思議な猫でした。