うちの猫たちの掛かりつけは「ねこの病院」という小さな動物病院。

気が付いたら、お付き合いは10年を越えていた。


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病院の入り口には「院長猫ぺーちゃん」の看板晴れ


初めて病院のドアを開けたときは、さすがにびっくりした。

受付のカウンターの下に籠が置いてあり、中に白黒の大きな猫がのんびり寝ていたのだ。「病院ねこのぺーちゃんです」というプレートが付いていた。

ぺーちゃんは、ドアから人があわただしく出入りするのにも慣れていて、むしろ緊張気味の私を

「うちの先生に任せておけば大丈夫だよ」

といいたげに、ゆったり座っている。

そっと手を伸ばしてフカフカの頭を撫でると、初めて診察に来た緊張感が解けていくのが分かった。

今では定年退職して非常勤になり・・・奥の部屋に移っただけ・・・いつも会えるわけではないけれどぺーちゃんは本当に偉い猫だとご尊敬申し上げている。


先生は気さくな女医さん。


治療のために動物が食前だの食後に薬を飲んでくれないから、全ては飼い主さんに託されるわけだけど、時によっては、その飼い主さんの生活習慣にまで、踏み込まなくては治療にならないこともある。

そんなときは、いつもと違って断固たる口調になるところも頼もしい。

そういう私も時々叱られるけど・・・あせる

猫のために良かれと思ってやっていたことが正反対だったりするから、謙虚になって、何でも聞くことにしている。


どんなに良い病院でも、そこに行くときは猫が病気の時なので、辛い思い出も多い。病院に続く急な坂道を重い籠と、重い心も抱えて何回も往復した。

      チューリップ黄チューリップ赤チューリップ紫

そんな病院が、思いがけなく明るい笑いに包まれたこともある。

私が子猫を拾ってしまったとき。

これからどうすれば良いのかと当惑しつつ、私も先生も看護士さんも、子猫を見つめていると自然と顔がほころんでしまった。

           チューリップピンクチューリップオレンジチューリップ赤

その日は社内で昼飯をとり、同僚たちは一足先に行きつけのカフェに「席をとっておくね」と出ていった。私も、すぐ後から追いかけるつもりで出かけたのだが・・・

道の角までくると、耳をつんざくような子猫の鳴き声がする。

尋常ではない、必死な泣き声・・・心の中に突き刺さるような声だった。

声を辿っていくと、ゴミの集積場の横で、小さなキジ猫が、身体を震わせながら必死に鳴いていた。いつからここにいたのか。

泣き続けた為か両目は目ヤニでピッタリとふさがっている。

考える間もなく、夢中でその身体をすくい上げ、会社に走った。


幸いなことに、私の勤める小さな会社は皆、動物好き。

社長さんの家には保護された猫が数匹おり、夜は車で地域猫たちに餌を配っている。こういう所に勤めているのも猫の神様のお計らいか?それはともかくとして・・・


私のデスクの横に段ボール箱を置かせてもらい古いタオルを敷いて子猫を入れた。

とにかく今日は早退して「ねこの病院」に連れていかなくては。

社長の了解をとって、先生の所にも連絡を入れ、手早く仕事を片付けようとした。

でも子猫は相変わらず狂ったように泣き叫び、一時もじっとしていない。

これじゃあ、電話も聞こえない電話

膝に乗せると安心してウトウトするのだが、それでは仕事が出来ない。

そんなことを何回か繰り返しているうちに、前に先生から教えてもらったことを思い出したビックリマークビックリマーク

ペットボトルに熱めのお湯を入れ、新聞紙でくるめば、湯たんぽの代わりになる。

低体温になりがちな子猫の体温を保てるし、温もりで気持ちも落ち着くというのだ。

どれも職場にある物なので、手早くお湯を入れたボトルを新聞紙にくるみ子猫のそばに置いてやると・・・子猫はそこに身を寄せてようやく静かになった。

やれやれ・・・

仕事を何とか終わらせ、段ボール箱を抱えてタクシーに飛び乗った。


病院では先生が手を空けて待っていてくれた。

診察の結果、子猫はいたって健康。生後1ヶ月半くらいとのこと。

良かった!普通食を食べさせられる。

先生は脱脂綿で根気よく子猫の目の周りを拭いてくれた。


すると・・・

なんとまあ、子猫の目はパッチリ開いて・・・

見たこともないような器量良しの子猫になっちゃったベル


この子は可哀想な捨て猫なんかじゃない!

うちでそのまま飼うこともできるけれど、すでにタケゾーとメイちゃんがいるので、

その中に入れば「その他大勢」という感じの猫になる。


でも、きっとこの子は誰かのオンリーワンになれるはず。

そういう星の下に生まれた子だわ。

間違いない手紙


うちで育てながら病院の窓に「里親さん募集」、のポスターを貼らせてもらった。

かつて、その窓に貼ってあったポスターを見て、メイちゃんを貰いうけた。

同じ窓に今度は私が張り紙を出したのだ。

何だか不思議な展開・・・

そして1週間後、先生から「子猫を欲しい」という主婦が現れたと連絡があった。


なんとその人は、うちのご近所。

直接面識はなかったけれど、友達がよく知っている人だった。

そのお宅はご主人の両親と娘さんの5人暮らし。

ご両親との間がギクシャクして、家の中が暗く、ノイローゼ気味の彼女が

「生き物でも飼えば、家の雰囲気も変わるかもしれない」

と思いついて、前に見かけた病院に思い切って相談してみよう、とやってきた。

そして窓のポスターを見て、ひと目でこの子を気に入ってしまったのだという。


雨の降る薄暗い昼下がりに、思い詰めた様子の彼女が病院に飛び込んできたとき、先生はいったい何事かと一瞬身構えた、とはのちのちの笑い話。


その後この子は、その家のプリンセス王冠1

普段は娘さんにベッタリだが、共稼ぎの若夫婦や娘さんが留守のときは、お爺ちゃんお婆ちゃんのところへ行って思う存分甘えるのだという。

だからお年寄りもメロメロなのだ。

やっぱり甘え上手な賢い子だった。


その子はシンデレラという名前にはならず

何故か「ちょぼ」というハスキー犬みたいな名前を貰ったとか

猫の神様も時々アジなことをなさるものだ。


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この子はご近所で保護されていたパキちゃん。

この後イケメンのお兄さんのお宅に貰われていった。