ウソンの涙で豆ご飯をつくりたいMさんに捧げるラブストーリー
久々のシナリオって楽しい~~
やっぱりシナリオを書いているときは苦しいが楽しいっす
ショートストーリーです
「鴛鴦(おしどり)の港」
○登場人物
時任ひとみ(35) 主婦 漁業で働きながら夫・三郎の帰りを待つ
時任三郎(40) マグロ漁船で働き、めったに帰らない
時任圭吾(32) 三郎の弟 東京で働いている
袴田(48) 金融業者
木下照子(36) ひとみの同僚
○漁港・魚処理場
小雪が舞う、寂れた雰囲気の漁港。
暗いプレハブの建物の中で、女たちが鮮魚をさばいている。
器用に魚を三枚おろしにしていく時任
ひとみ(35)。
疲れた表情で首に巻いたタオルで額の汗を拭く。
○同・休憩室
石鹸で手を洗うひとみと、木下照子(36)。
照子、ひとみを見て
照子「今日、うちでご飯食べない?」
ひとみ、一瞬手を止めるが
ひとみ「ううん、今日はいいわ。明日のため
に掃除もせねばなんないしな」
ひとみ、目元が緩む。
その表情に気づいた照子。
照子「あ~明日だあ、三郎さん帰ってくんだなあ。どれぐらいぶりか?」
ひとみ、笑みを隠さずに
ひとみ「半年だあ::」
ひとみ、手をタオルで拭き
ひとみ「ほな、帰るわ。お疲れ」
タオルで顔を拭きながら、雪の中へ出て行くひとみ。
ひとみの後姿を見つめる照子。
○海上・マグロ漁船の甲板
ずぶ濡れになり作業をする三郎。
その表情は頑な。
○時任家・居間(夜)
かなり古く、質素な室内。
壁のカレンダーは漁協の名前入りで
2月14日に丸がしてある。
ひとみ、室内を丁寧に掃除している。
○同・玄関(夜)
紙袋を手に玄関を開ける時任圭吾(32)
圭吾「姉さん!いる?」
圭吾、肩の雪を払う。
○同・居間(夜)
向かい合い食事をとるひとみと圭吾。
食卓には惣菜が並ぶ。
ひとみ「ごめんね。いつも差し入れしてもらって」
圭吾「何言ってんだよ。丁度出張で近くまで来たし、一人者なんで気楽なもんさ」
ひとみ、お茶が空になっているのに気付き立ち上がる。
圭吾、カレンダーに気付いて
圭吾「兄さん::明日だよね」
ひとみ、振り向かずに
ひとみ「う::うん」
圭吾、かまぼこを頬張りながら
圭吾「これで::借金完済かあ::」
ひとみ「::」
圭吾「長かったなあ」
ひとみ、お茶の葉をかえる。
○ひとみの回想
豪華なマンションの玄関。
柄の悪い袴田(48)が借用書を差し出す。
ひとみをかばう様に立つ三郎。
袴田「時任さんが保証人になったこの借用書
ですが、あなたのお友達が逃げましてね。
期限までに5000万!きっちり払っても
らいましょうか!!」
凄む袴田。
三郎「そ::そんな::」
袴田「何なら、奥さんにお仕事紹介しましょうかねえ!」
首をふるひとみを抱きしめる三郎。
(回想終わり)
○同・居間(夜)
うれしそうに微笑むひとみ。
ひとみ「ええ::船に乗ること4回。これで
開放されるわ」
圭吾、ひとみのあかぎれの手を見て、
圭吾「姉さんも、がんばったよ::」
ひとみ、窓の外を見ると雪。
ひとみ「今夜はしばれるよねえ」
圭吾「そうだなあ::」
ひとみ、コタツで転寝する。
圭吾、部屋の隅の毛布を手に取りひとみの肩にかける。
微笑んでいるひとみ。
○海上・マグロ漁船・中(夜)
狭苦しい室内でごろ寝の男たち。
三郎、腹巻からひとみの写真を取り出し見つめる。
○同・庭(朝)
黒い雲が立ち込め、吹雪が舞っている。
○同・居間(朝)
キレイに片付いた室内。
ひとみが、窓の外を覗いている。
風が窓を響かせる。
ひとみ、窓ガラスに映る顔を見て唇を指で撫でる。
駆け込んでくる圭吾。
圭吾「姉さん!大変だ!」
ひとみ、振り返り
ひとみ「え?」
圭吾「兄さんの船が!船が!」
泣きそうな表情の圭吾。
ひとみ、一瞬にして玄関を飛び出していく。
○港
薄着のまま、走るひとみ。
○漁協・中
漁協の中には大勢の人が集まっている。
駆け込んでくるひとみと圭吾。
照子、ひとみに駆け寄り
照子「三郎さんの船がね::船が::」
ひとみ、唇が震える
ひとみ「うちの::人::うちの人は!」
無線の側に座っている男1が、ひとみを見て
男1「::さっき、報告がはいって::マグ
ロ漁船が::エンジン故障の連絡の後、こ
の吹雪で連絡が取れずに」
ひとみ、座り込む。
男2「行方不明なんだそうだ::」
ひとみの手を握り締める照子。
ひとみ「そんな::そんなの::」
照子「ひとみちゃん::」
愕然とする圭吾。
ひとみ「いや~!あの人が::あの人があ」
ひとみ、泣き崩れる。
静まり返る漁協内。
○港
吹雪の中、海に向かって両手をあわせるひとみ。
髪が風で崩れて雪が体を打つ。
圭吾がコートをひとみに掛ける。
ひとみ、一心不乱に祈っている。
漁協の入り口ではひとみを見つめる照子。
○漁業前
無線を手にする男1。
他にも携帯で話す者や、心配そうに座り込む女たち。
テレビで流れる天気予報も見る照子。
○港
圭吾、ひとみの肩に手をかけて
圭吾「姉さん::」
ひとみ、海を見つめている。
圭吾「姉さん::俺、もし兄さんにもしものことがあったら::俺が、姉さんを::」
ひとみ、手に力を込める
ひとみ「あの人は::私たちは誓ったの」
圭吾「え?」
ひとみ「病めるときも、貧しきときも一緒にいようって::結婚するとき誓ったの」
圭吾「姉さん?」
ひとみ「必ず::必ず帰ってくるわ。私の元に」
海を見つめるひとみ。
圭吾、ひとみの肩から手を離す。
ひとみ「必ず::」
圭吾「姉さん::」
ひとみ、寒さに震え座り込む。
圭吾「姉さん、大丈夫?」
ひとみ、立ち上がろうとする
ひとみ「::だ、大丈夫よ::」
圭吾、ひとみを支え視線を海に戻す。
荒れ狂う海の上に光る一隻の船。
圭吾、目を細めて確かめる。
圭吾「あ::れ::姉さん::あれって」
ひとみ、顔をあげ船を見つける。
ひとみ「あ::あ::」
漁協の中の人々が駆けつける。
照子「ひとみちゃん!船だ!船だよ!!」
ひとみ、涙で笑顔になる。
どんどん近づいてくるマグロ漁船。
甲板には大勢の男たちが手を振っている。
ひとみ、視線で三郎を探す。
真っ黒に日焼けした三郎を見つける。
圭吾「兄さんだ!よかった!」
港に横付けされるマグロ漁船。
順に下船する男たちと三郎。
三郎に駆け寄るひとみ。
三郎「会いたかった::心配かけたな」
ひとみ、無理に笑おうとする
ひとみ「心配なんか::心配なんか::」
三郎「ひとみ::」
ひとみ、三郎に抱きつく
ひとみ「お帰りなさい!」
二人を見つめる圭吾と照子。
三郎、大きく息をすってひとみを抱きしめる。
三郎の胸で泣き崩れるひとみ。