久しぶりにシナリオ書いたぜ | 明日は明日の風がふく

明日は明日の風がふく

2023/3/20 乳がん手術を受けました
浸潤性がんの特殊型(粘液がん)/悪性度1/ステージ1
リンパ節転移なし
エストロゲン受容体 95%/プロゲステロン20%/Ki67 10%
HER2陰性/マイクロポピュラリーあり
右乳房全摘&再建

ウソンの涙で豆ご飯をつくりたいMさんに捧げるラブストーリー
久々のシナリオって楽しい~~
やっぱりシナリオを書いているときは苦しいが楽しいっす
ショートストーリーです



「鴛鴦(おしどり)の港」


○登場人物
時任ひとみ(35)  主婦 漁業で働きながら夫・三郎の帰りを待つ
時任三郎(40)   マグロ漁船で働き、めったに帰らない
時任圭吾(32)   三郎の弟 東京で働いている

袴田(48)  金融業者 

木下照子(36) ひとみの同僚

       
○漁港・魚処理場
   小雪が舞う、寂れた雰囲気の漁港。
   暗いプレハブの建物の中で、女たちが鮮魚をさばいている。
   器用に魚を三枚おろしにしていく時任
   ひとみ(35)。
   疲れた表情で首に巻いたタオルで額の汗を拭く。

○同・休憩室
   石鹸で手を洗うひとみと、木下照子(36)。
   照子、ひとみを見て
照子「今日、うちでご飯食べない?」
   ひとみ、一瞬手を止めるが
ひとみ「ううん、今日はいいわ。明日のため
に掃除もせねばなんないしな」
   ひとみ、目元が緩む。
   その表情に気づいた照子。
照子「あ~明日だあ、三郎さん帰ってくんだなあ。どれぐらいぶりか?」
   ひとみ、笑みを隠さずに
ひとみ「半年だあ::」
   ひとみ、手をタオルで拭き
ひとみ「ほな、帰るわ。お疲れ」
   タオルで顔を拭きながら、雪の中へ出て行くひとみ。
   ひとみの後姿を見つめる照子。

○海上・マグロ漁船の甲板
   ずぶ濡れになり作業をする三郎。
   その表情は頑な。

○時任家・居間(夜)
   かなり古く、質素な室内。
   壁のカレンダーは漁協の名前入りで
   2月14日に丸がしてある。
   ひとみ、室内を丁寧に掃除している。

○同・玄関(夜)
   紙袋を手に玄関を開ける時任圭吾(32)
圭吾「姉さん!いる?」
   圭吾、肩の雪を払う。

○同・居間(夜)
   向かい合い食事をとるひとみと圭吾。
   食卓には惣菜が並ぶ。
ひとみ「ごめんね。いつも差し入れしてもらって」
圭吾「何言ってんだよ。丁度出張で近くまで来たし、一人者なんで気楽なもんさ」
   ひとみ、お茶が空になっているのに気付き立ち上がる。
   圭吾、カレンダーに気付いて
圭吾「兄さん::明日だよね」
   ひとみ、振り向かずに
ひとみ「う::うん」
   圭吾、かまぼこを頬張りながら
圭吾「これで::借金完済かあ::」
ひとみ「::」
圭吾「長かったなあ」
   ひとみ、お茶の葉をかえる。

○ひとみの回想
   豪華なマンションの玄関。
   柄の悪い袴田(48)が借用書を差し出す。
   ひとみをかばう様に立つ三郎。
袴田「時任さんが保証人になったこの借用書
ですが、あなたのお友達が逃げましてね。
期限までに5000万!きっちり払っても
らいましょうか!!」
  凄む袴田。
三郎「そ::そんな::」
袴田「何なら、奥さんにお仕事紹介しましょうかねえ!」
   首をふるひとみを抱きしめる三郎。
(回想終わり)

○同・居間(夜)
   うれしそうに微笑むひとみ。
ひとみ「ええ::船に乗ること4回。これで
開放されるわ」
  圭吾、ひとみのあかぎれの手を見て、
圭吾「姉さんも、がんばったよ::」
   ひとみ、窓の外を見ると雪。
ひとみ「今夜はしばれるよねえ」
圭吾「そうだなあ::」
   ひとみ、コタツで転寝する。
   圭吾、部屋の隅の毛布を手に取りひとみの肩にかける。
   微笑んでいるひとみ。

○海上・マグロ漁船・中(夜)
   狭苦しい室内でごろ寝の男たち。
   三郎、腹巻からひとみの写真を取り出し見つめる。

○同・庭(朝)
   黒い雲が立ち込め、吹雪が舞っている。

○同・居間(朝)
   キレイに片付いた室内。
   ひとみが、窓の外を覗いている。
   風が窓を響かせる。
   ひとみ、窓ガラスに映る顔を見て唇を指で撫でる。
   駆け込んでくる圭吾。
圭吾「姉さん!大変だ!」
   ひとみ、振り返り
ひとみ「え?」
圭吾「兄さんの船が!船が!」
   泣きそうな表情の圭吾。
   ひとみ、一瞬にして玄関を飛び出していく。

○港
   薄着のまま、走るひとみ。

○漁協・中
   漁協の中には大勢の人が集まっている。
   駆け込んでくるひとみと圭吾。
   照子、ひとみに駆け寄り
照子「三郎さんの船がね::船が::」
   ひとみ、唇が震える
ひとみ「うちの::人::うちの人は!」
   無線の側に座っている男1が、ひとみを見て
男1「::さっき、報告がはいって::マグ
ロ漁船が::エンジン故障の連絡の後、こ
の吹雪で連絡が取れずに」
  ひとみ、座り込む。
男2「行方不明なんだそうだ::」
  ひとみの手を握り締める照子。
ひとみ「そんな::そんなの::」
照子「ひとみちゃん::」
   愕然とする圭吾。
ひとみ「いや~!あの人が::あの人があ」
   ひとみ、泣き崩れる。
   静まり返る漁協内。

○港
   吹雪の中、海に向かって両手をあわせるひとみ。
   髪が風で崩れて雪が体を打つ。
   圭吾がコートをひとみに掛ける。
   ひとみ、一心不乱に祈っている。
   漁協の入り口ではひとみを見つめる照子。

○漁業前
   無線を手にする男1。
   他にも携帯で話す者や、心配そうに座り込む女たち。
   テレビで流れる天気予報も見る照子。

○港
   圭吾、ひとみの肩に手をかけて
圭吾「姉さん::」
   ひとみ、海を見つめている。
圭吾「姉さん::俺、もし兄さんにもしものことがあったら::俺が、姉さんを::」
   ひとみ、手に力を込める
ひとみ「あの人は::私たちは誓ったの」
圭吾「え?」
ひとみ「病めるときも、貧しきときも一緒にいようって::結婚するとき誓ったの」
圭吾「姉さん?」
ひとみ「必ず::必ず帰ってくるわ。私の元に」
   海を見つめるひとみ。
   圭吾、ひとみの肩から手を離す。
ひとみ「必ず::」
圭吾「姉さん::」
   ひとみ、寒さに震え座り込む。
圭吾「姉さん、大丈夫?」
   ひとみ、立ち上がろうとする
ひとみ「::だ、大丈夫よ::」
   圭吾、ひとみを支え視線を海に戻す。
   荒れ狂う海の上に光る一隻の船。
   圭吾、目を細めて確かめる。
圭吾「あ::れ::姉さん::あれって」
   ひとみ、顔をあげ船を見つける。
ひとみ「あ::あ::」
   漁協の中の人々が駆けつける。
照子「ひとみちゃん!船だ!船だよ!!」
   ひとみ、涙で笑顔になる。
   どんどん近づいてくるマグロ漁船。
   甲板には大勢の男たちが手を振っている。
   ひとみ、視線で三郎を探す。
   真っ黒に日焼けした三郎を見つける。
圭吾「兄さんだ!よかった!」
   港に横付けされるマグロ漁船。
   順に下船する男たちと三郎。
   三郎に駆け寄るひとみ。
三郎「会いたかった::心配かけたな」
   ひとみ、無理に笑おうとする
ひとみ「心配なんか::心配なんか::」
三郎「ひとみ::」
   ひとみ、三郎に抱きつく
ひとみ「お帰りなさい!」
   二人を見つめる圭吾と照子。
   三郎、大きく息をすってひとみを抱きしめる。
   三郎の胸で泣き崩れるひとみ。